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戦士の受難  作者: とんぼ。
第1章 立志編
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「真の戦士」

カンカンカンカン!


 フライパンを叩く。


 「朝だぞ!朝食の準備は終えたぞ!」




 カンカンカンカン!


 「おはようセイジ。今日も美味しそうだね。」


 「当たり前だ。俺が作ったんだぞ?」


 「本当に自信満々ですね。」




 目を覚ましたクロとハクエが降りてくる。ケイヤはまだ眠っているらしい。


 「俺はこれから朝練に行ってくる。皿は片付けておいてくれ。」


 「朝ごはんは食べたの?」


 「あぁ。それじゃあ、行ってくる。」


 「お気をつけてー。」


 眠たそうに目をこする2人に見送られつつ、平野へと向かう。





 「はっはっはっ。」


 ケイヤに教わった通り、平野に目印を2つ置いてその間を走り続ける。


 リズミカルに呼吸をすることで上手く脳に酸素が入って自ずと目も冴えてきた。




 「はっはっ、そろそろ休憩するか。」


 足を緩めつつ休憩の体勢へと移る。今日は1人の為、休憩時間はやや寂しい。


 そんな所に丁度良く人がやって来た。




 「あれ?貴方はケイヤさんと一緒にいた方ですよね?」


 「あぁ。お前は確か、ケイヤの後輩だったな。」


 「はい!覚えててくれたんですね!」




 ぱっ、と人懐っこい笑顔を見せる彼だが絆されてはいけない。何せ、学生の頃の趣味が蟻の巣に水を流し込むことなのだから。




 「そういえば、パーティを抜けた後は何をするんだ?」


 「うーん、特に決めてないんですよね。だから、今は貯金で生活しつつ趣味に生きてます。」


 「趣味か…。一応聞くがどんなものにハマっているんだ?」




 嫌な予感しかしなかったが世間話として聞いておくことにした。


 すると大きな荷物を背負った後輩はハツラツに語りだす。




 「今は動物の交尾を観察するのが趣味です!」


 「こ、こうび…?何故…?」


 「何故って生命の神秘だからです!良いですかセイジさん!人間に限らず生き物は命に関わる瞬間こそ輝くんです!そして命に関わる瞬間というのは死に際、生まれてくる瞬間、そして交尾の時間!これらの時間に生き物は固い意志を見せてですね、」


 「そ、そこら辺にしてくれ。」




 後輩が追放された理由は価値観の不一致にあるのではと思い始めた。


 彼なら仲間の情事にも突撃をかまして生命の神秘とやらに目を輝かせそうだ。




 「俺はそろそろ走り始める。それじゃあ、またな。」


 「はい!また!」


 またな、と言ったがあまり会いたくない相手だ。そんなことを思って引き続き走る。








 朝練が終わったら次は図書館へ向かった。ハクエに教わったように、戦い方を勉強するためだ。


 それと運が良ければまた子供たちと遊べるかもしれない。




 「む、流石に今日は居ないか。残念だ。」


 一応子供用のスペースを見てみたが、あの日の少年少女は居なかった。


 諦めて、「馬鹿でも分かる」と題された参考書を探そう。




 参考書には斧のタイプが分けられていた。


 両手で持つ用の重量級のものと片手で持てて、両手持ちを目指せるタイプ2つがあった。




 セイジがクロに買ってもらった斧はカッコイイ分、ごてごてして重い武器になっている。つまりは重量級だ。




 重量級の斧は基本、重力に従って上から下に振るうのが効果的らしい。どうやら無駄な体力を温存しないからのようだ。


 慣れてきたら斜めに振るうと戦いの幅が広がるとも書いてあった。




 「ふむふむ。」


 簡単に紙へまとめる。図も書き写すのでやや面倒な作業だ。


 「いっそのこと参考書を買ってしまおうか…」


 「お兄ちゃん、コピーすればいいんじゃない?」


 「ねー。」




 隣を見ると以前遊んだ少年と少女がいた。


 「コピー?出来るのか?」


 「うん!司書さんに頼むんだよー。」


 「お金は必要だけどね。」


 「金か…それなら問題ない」


 


 そう言って誇らしげに懐から金を出す。現状、唯一といっていいほどの自身の長所。金を持っているという点が活きるのだ。


 見せびらかすように金を出してきたセイジに子供たちは冷やかに一言放つ。




 「お兄ちゃんみたいな人、なりきんっていうんでしょ?」


 「あー!知ってる!パパとママが嫌いって言ってた!」


 「そうなのか…お前のパパとママに嫌われているのか俺は…」




 多少心に傷を付けつつ、参考書のコピーにとりかかる。


 コピーをするには紙へ記入しなければならないので指定された紙にコピーしたいページを書いて提出。




 「ふむ。面倒だし、全てコピーしてしまうか。」


 「お兄ちゃん、コピー出来るページは限られてるんだよ。」




 「そうなのか!?」


 「そうだよー。図書館使ったことないの?」


 「あまりないな。本なら家にあったのでな。」




 子供たちに介護されつつ、無事にコピーを終えた。後はとりあえず昼食をとって、力を試すために依頼を受けに行こう。




 「俺はこれから昼食だが、お前達も行くか?」


 「「行くー!」」




 






 「僕これー!」


 「私これにするー!」


 「分かった。注文しておこう。残すなよ。」


 食事処に来た3人はテーブルにあるメニューを吟味していた。




 子供たち2人が頼んだのはおもちゃのついたランチセットである。


 「………今言うのは何だが、俺に着いてきて大丈夫なのか?」


 「大丈夫って?」


 「いや、お前達の両親は心配していないかと思ってな。」




 というか、知らない人について行って尚且つ一緒に食事をするというのはあまり褒められたものではない気がする。




 「大丈夫だよー。」


 「うん。パパとママは知らない人からでも貰えるものは貰っとけって言ってた。」


 「そうか…強かな教育方針だな。」




 正直、心配になるような両親だ。


 そんな話をしていると、料理が到着した。


 3人は談笑しながら料理を平らげた後、解散したのだった。












 


 食事を終えた後は、ギルドへ行き依頼を受けに行った。自身の力不足は承知していたので、比較的難易度の低いD級のクエストを受けようと考えていた。


 「あれ?おじさんのお友達のおじさんだー!」




 いきなり声をかけてきたのは、先日クロと出会った迷子の少年だった。


 そういえば彼はクロをおじさんと称していたな。




 「おじさんではないが…お前はこんな所で何をしているんだ?」


 「依頼を出したんだー。」


 「依頼?」




 「うん。パパのお見舞いに行きたいから護衛の依頼を出したんだ!」


 「ふむ。受付、この少年が出した依頼はどれだ。」


 「え?えーと、これです。」




 突然、不遜な物言いで呼ばれたギルドの受付は驚きながらも少年の出した依頼を見せる。


 「D級の依頼か…」


 「まぁ、あの辺りですとこれといったモンスターは居ませんし、報酬金を加味してもD級が妥当かと。」


 「よし。受付、この依頼は俺が引き受けよう。」




 分かりました!と言った受付は元気に依頼の手続きをし始めた。


 「おじさん、僕のこと守ってくれるのー?」


 「あぁ。とはいっても、この護衛はあくまで保険のようなものだろう。」


 




 手続きを終えた2人は早速、少年の父親がいる街目指して行くのだった。











 「それでねー、僕、パパの本棚で見つけちゃったの!」


 「何を見つけたんだ?」


 「おっきな大人が男の子に酷いことする本!」




 「ごほっごほっ。そ、そうか。まさか中身をみたのか?」


 「ううん。パパが大人になってから見せてやるって。」


 「………そうだな。そうした方が良い。」




 ギルドのあった街を出た2人は平野を横断している。最中には少年の父親や母親の話を聞いた。


 


 話を聞くに、少年の家は自身の家には及ばないものの、裕福そうではあった。


 「……お前は本当に家族が好きなんだな。」


 嬉しそうに話していた少年の顔を見て、口に出してしまう。




 「うん!大好き!おじさんは?」


 「………俺も好きだが。他の家族は俺を好きではないだろう。」


 「何でそう思うの?」


 「………俺はあまり出来がよくないからな。」




 道連れの相手に何を言っているだろうか。相手は自分よりも一回りほど下の子供だというのに。


 「嫌いって言われたの?」


 「……いや。」


 「なら聞いてみなくちゃ!ちゃんとお話しないと!僕のパパみたいに簡単に話すのが難しくなっちゃう前にね!」




 「……そうだな。ありがとう。」


 小さな子供の筈が、自分なんかよりよっぽど大人に見えた。









 「わっ!スライムだ!」


 話をしていると、2人の前に逸れた一匹のスライムがいた。


 とりあえず少年の前に立ち、斧を構える。




 攻撃は上から下へ。まずはとりあえずまっすぐ重力に従って振るう。


 それを意識してスライムと戦闘することに。




 なったのだが、一向に攻撃は当たらず疲れはたまる一方であった。




 「おじさん!スライムの動きを見ないと当たらないよ!」


 「あ、あ、あぁ。わ、分かった。」


 スライムと戦っているとは思えないほど汗を流しつつ、相手の動作を見る。




 跳ね回るスライムだったが、そこには規則があった。


 クロに貰った魔石を見ると色は赤で、空気中のエネルギーは多めであった。




 それを確認すると、斧のダイヤルをいじって、武器を強化する魔法を使う。


 クロに選んでもらった物はダイヤル1つでも問題無く動くようだった。




 「はぁっ!」


 1,2,3とリズミカルに飛ぶスライム。その後、少し間がある。


 そこを強化した斧で勢いよく叩きつけた。




 「おじさんお疲れさま!」


 「あぁ。」




 スライム如きに大分時間を取られたのを見て少年は労いつつも聞いてくる。




 「おじさん、本当にs級ギルドなの?」


 「あ、あぁ。……飾りみたいなものだがな。」


 「ふーん、そっか。」




 そう、今の自分ではs級ギルド所属というのはただの飾り。


 実力が伴っていないものだ。


 


 ギルドにはSからDまで評価されるが、それはメンバーとて同じだ。


 通常、依頼の達成等で功績を認められて評価が上がる。




 セイジはパーティのお陰で功績がついていき、結果として見合わないs級に認定されてしまったというわけだ。




 つまり、他のメンバーと比べて個人の功績など無いに等しかった。




 無論、家族はそれを知っている。だから、彼らの自身に対する評価は依然として出来損ない止まりだろう。




 そんな状態は、もうどうしようもないと思っていた。しかし、少年の言葉が、仲間の存在が、諦めを変えた。




 もう一度、家族と話そう。認められるように。そう思って少年の依頼を無事に終えるのだった。















 「お久しぶりです、父上。」


 「セイジか。何のようだ。」

 


 早速実家に帰ったセイジは父と対面していた。緊張が汗として肌に伝わり、目視出来る。

 ぎこちない彼とは反対に、父は静かに書類へ目を通している。こちらには目もくれない。




 「父上、私は認定ギルドを目指そうと思います。」


 「………お前がか?」


 「はい。」




 認定ギルドとは文字通り国に認められるもので、名誉あり、待遇も良いものだ。


 そのためにはs級ギルドになるのは勿論、20個あるs級ギルドの中でも上位3個にならなければならない。


 人数や功績など条件は沢山ある。




 だが、誉れ高い認定ギルドになればもう誰も出来損ないなんて言えない筈だ。


 仲間にも、家族にも、報えるはずだ。




 「無論、私自身の功績をあげたうえでです。今までかけたご迷惑の分にも報えるように。」




 もう、飾りの戦士ではいたくない。


 自他とも認める真の戦士になりたい。




 「見ていて下さいとはいいません。ですが、嫌でも貴方の視界に入るような戦士になります。きっと。」


 これだけを言って父の部屋から去る。


 


 吐いた言葉は戻せない。だが、それで良い。戻すつもりもない。


 


 セイジは真の戦士を目指して歩むことを決めたのだから。

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