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戦士の受難  作者: とんぼ。
第1章 立志編
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「信頼」

 あんまりな実力を発揮した戦士セイジ。彼の力を見たパーティ一同は話し合った結果、能力向上のため、一日一人ずつ付きっきりでセイジくん係として強化をすることになった。


 「ということで!今日は私が貴方をパワーアップさせる日です!」

 意気揚々としているのは白魔導士ハクエ。髪から肌、瞳まで全てが白く透き通っている女だ。

 

 「セイジ。戦士というのはどうあるべきか、どう動くか覚えていますか?」

 「あぁ。とにかく戦うのだろう?」

 「……。それでは、剣士はどう動くか覚えていますか…?」

 「あぁ。とにかく戦うのだろう?」


 「で、では魔導士は、」

 「それも、とにかくたたか」

 「分かりました!結構です!」

 間違えようがないとも思えた回答だったが、ハクエの意にそぐわなかったらしい。

 まさかここまでとは、と驚愕しているのが見て取れる。


 「念の為聞きますが、本当に育成学校に通っていたのですよね?」

 「あぁ。だが、如何せん授業の内容は右から左へと流れてしまってな。」

 「な、成る程。では、まず基礎的な知識を身につけるために図書館へ行きましょうか。」

 ということで、図書館へと向かうことになった。図書館など涼みに行く以外用事がなかったので不思議な感覚だ。







 

 「はーっはっはっ!この大魔王!魔セイジが貴様らを蹂躙してやる!」

 「きゃっー!助けてー」

 「姫様!僕がお助けします!魔王この野郎ー!」

 「ぐはっーー!」

 意気揚々と図書館へ向かったセイジとハクエだったが、ハクエは参考書探しのため、セイジは手持ち無沙汰となってしまった。

 そこで見つけたのは、子供用のスペースで遊ぶ少年少女である。


 「よし、次は俺が姫様役になってやる。」

 「お兄ちゃんまたー?」

 「仕方ないなぁー。」

 子供達と遊んでやるという建前で、セイジは思いっきり楽しんでいた。子供達はというと、いつの間にか遊んでやっているという感覚を持ち始めている。

 

 「うっうん。」

 姫様用に喉をチューニングし、準備は万全。といった所に声が掛かった。

 「セイジ、参考書は見つかりましたので、そろそろ勉強しますよ。」

 「何っ!?今いいところだというのに…」

 「お兄ちゃん勉強はしなきゃだめだよー。」

 「そうだよー。」

 「き、貴様ら裏切るのか…!」

 

 「行きますよセイジ。貴方たち、この人と遊んでくれてありがとうね。」

 「いーえ。」

 「楽しかったよー。またねー。」

 子供達の裏切りにあったセイジはハクエに引き摺られながら図書館内の談話室へと連れて行かれたのだった。








 

 「それではまず、戦士という職の特性を説明しますね。」

 そう言ったハクエは「馬鹿でも分かる!戦士職!」と書いてある本を開いた。

 ご丁寧に大きな図が載ってあり、まさにセイジ向けともいえる本であった。


 「戦士とは基本パーティ内で真ん中か前方に位置します。後方の魔導士を守ったり、最前線にいる剣士のサポートや必要であれば指示を行います。」

 「サポートは他の職もするのではないか?」

 「そうですが、やはり最も近くに居るのは戦士ですからね。隙を補い合ったりするんです。」

 

 成る程、初めて聞いた感覚だ。おそらく育成学校で一度聞いたはずだが。

 「隙を補うというのなら、俺はこなせていたな。」

 「逃げ回っていた貴方はむしろ、隙を作りまくりでしたよ…」


 「それで、次は最前線で戦う剣士職です。」

 再び「馬鹿でも分かる!」とシリーズ付けされた本を取り出す。

 「剣士職は言った通り、最前線で斬り込み隊長的役割をこなします。基本は前に突き進みますが、危険を感じたら仲間の為に下がる必要があります。」


 「ケイヤは確かに前へ突き進むことは抜きん出てきそうだが、危険の察知など出来るのか?」

 「全然出来ていたじゃないですか…」

 「野生の勘というやつか…」

 「はい。野生の勘というやつですね…」

 2人は鍛え抜かれたケイヤの肉体と大雑把な言動を思い出しながら言っていた。


 「最後は魔導士です。杖や魔導書など魔法の効果がよく出る魔導具を使う役職ですね。基本的に後衛に居て、仲間のサポートそして指示出しをします。」

 「そういえば魔導士は白と黒に分かれているが、あれは何故だ?性別で分けているのか?」


 「今のご時世、そんなことをしては育成学校の教育は叩かれますよ。」

 「そうか…世知辛い世の中だな。」

 「まぁ世間の情勢は置いておいて下さい。白と黒で分かれるのは攻撃魔法か治癒魔法を使うかという風に分かれているだけです。」


 「それでは一通り役職について説明したので、次は戦士職の具体的な立ち回りについて説明します。」

 「ま、まだあるのか。」

 「頑張ってください!」


 「一つ目の役割として剣士のサポートですね。隙をカバーする立ち回りが必要ですが、剣士の使う武器によって、出来る隙はかなり違います。」


 「短剣であれば長期戦になった時のスタミナ切れに注意が必要です。手数を増やした戦い方ですからね。出来れば、スタミナが切れる前に撤退の指示を出してください。」


 「一般的な剣であればこれといって特に注意はありませんので剣士自身の戦い方を理解して、弱点を補う形になります。」


 「最後に大剣ですが、とにかく攻撃しやすくなるように、隙を作ってあげるとスムーズに戦えます。大剣は大振りな攻撃ですからね。」


 「基本的な戦い方は以上ですが…セイジ?聞いてます?」

 「あ、あぁ。てんで頭に入ってこないがな…」

 「まだ基本ですよ!?」

 「まだ基本なのか…」

 絶望する他ない事実だ。なんと嘆かわしい。


 「甘く見てもらっては困る。俺の頭は育成学校の教師でさえ匙を投げたのだからな。」

 「だからどうして得意げなんですか!?」

 最早得意げになる他ないのだ。どう頑張っても、耳に入る知識は頭からこぼれ落ちてしまうのだから。


 教師さえ見放したセイジ。流石のハクエでさえもお手上げかと思ったがそうでもないようだ。

 「うーん、何処から忘れてしまうのですか?」

 「全部だ。はじめから。あぁ…だが、剣士については覚えてるぞ。前へ突進して勘で避ける。まさに、ケイヤそのものだからな。」


 「…そうですか。つまり、身近な例さえあれば覚えられるかもしれませんね。セイジ、他の職も私達に当てはめて考えてください。」

 「ふむふむ。」

 「それと覚える際は文章で完璧に覚えるのでなく、要点だけで大丈夫です。次いでに私達のような実例やこの参考書にある図などと関連付けると覚えやすいですよ。」


 ハクエは参考書のページを指す。そこには、簡単な人が書かれており各々武器を持ってポージングしていた。

 「図か…そうだな…。この人間の顔を貴様らにすれば分かりやすいやもしれないな。」

 「そ、そうですか。覚えられるならいいんですけど…」


 ということで、早速持参した紙にパーティメンバーの顔と職の特徴を簡単に書いておいた。

 「…セイジ、これは、大根ですか…?」

 「?いや、ハクエだが。」

 「私ですか!?」

 「あぁ。白いし、よく描けてるだろう。」


 「それじゃあこれは、」

 「クロだ。」

 「ごぼうかと思いました!というか顎尖り過ぎでは!?」

 「そうか?こんなものだと思うが…」


 見事な画伯っぷりを披露したセイジ。ここで、かなりの時間経っていたことに気がつく。

 基礎の基礎だというのに、これ程時間が掛かるとは思わなかった。先が思いやられて仕方ない。

 きっと彼女もそう思っているはずだ。


 「……悪いな、ハクエ。この調子では年寄りになっても極められそうにない。」

 「いえ!お年寄りになる前に貴方を成長させてみせます!」

 「この有り様だぞ…?」

 「次はもっとスムーズに教えてみせます!だから大丈夫です!」

 

 「そうか…」

 再三言うが、教師でさえも匙を投げたのだ。よっぽどの頭の出来なのだ。それなのに、彼女は見捨てようとしない。


 「何故、そこまでするんだ?」

 「何故って、仲間だからですよ!」

 至極当然のように、何ともないように彼女はそう告げた。


 「……。そうか…」

 金貨を取り出そうとした手を止めた。彼女に応えるには、金ではなく、自身の成長を見せることが一番だと思ったのだ。

 何をやっても駄目な自分。教師や家族にも期待をされなくなった自分。


 それでも、彼女は自分を導いてくれるらしい。だから、きっと、応えてみせよう。そう思った。













 時間も時間なので、2人は図書館から帰ることにした。その途中で奇妙な格好をした男にぶつかった。

 

「あっ!ごめんなさい!大丈夫ですか?」

 「いやいやこっちこそごめんねごめんねー。てこれは古いか。」

 男は2人や周囲の人とは違った装いをしていた。何処からやってきたのだろうか。


 「もしかして、地球からやってきたんですか?」

 「うんうん!そうなんだよねー。やっぱり気づく?」

 「はい。なんと言っても服装が違いますから。」

 

 地球からやってきたという男をまじまじと見る。話には聞いたことはあるが、初めて見た。

 「旅行でもしているのか?」

 「まあね!でも、ここの空気はちょっと重いし、お陰で機械も動かないしで…紙のマップなんか久々に使ったよ。」

 「機械…見せてくれないか」

 「うん?良いけど電源はつかないよ?」


 「 あぁ。構わない。」

 男から受け取った薄い板を受け取る。板の表面は真っ黒で冷たかった。

 「これは何に使うんだ?」

 「通信用だよ。まぁ、それ以外にも色々、遊んだり出来るんだけどね。」


 こんな薄い板にはどれだけの可能性が詰まっているのだろうか。未知の道具に心躍らないはずがない。

 「この板、いくらする。金ならあるが。」

 「セイジ!買ったとしても機械であればここでは使えませんよ!それに、直ぐお金で解決するのは辞めなさい!」

 「ぐっ。」


 興味深い品だったが、どうやら断念するほかないらしい。残念だ。

 「ははは。元気だねぇ君たち。僕は宿に行く時間だから、またねー。」

 「はい。お気をつけて。」


 男を見送って再び2人は帰路につく。

 「それにしても、地球人とは初めて会ったが随分うまく話せるのだな。」

 「それはそうですよ。私達の先祖はもともと地球にいたのですから。」

 「む。そうだったのか。」


 また知らないこと、忘れていたことを知れた。今日一日は有意義以外の何ものでもなかった。

 「ハクエ。」

 感謝と決意の意を込めて呼びかける。

 

 「どうしました?」

 明るく返事をする彼女に呼びかける。夕日に照らされ、僅かに赤らんだ白い彼女に言う。


 「今日はありがとう。」

 こうして戦士セイジは一歩進むのだった。


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