「救済?抗い?」
どこまで走っただろう。雨はいつのまにか止み、あたりには水溜りができていた。
「ハァ、ハァ、」
制服は水の跳ね返りで汚れていた。
あのあとずっと走り続けてきた。夜が開けてきて、空が少し明るくなっていた。
「ハァ、ハァ、ハァ、」
汗を拭い。足を止める。
全力でとにかく走ってきた。
「もう、限界、」
バタンっと倒れた。
「!!おい!小娘!」
ニカルが呼びかけるが反応がない。
「くっ!!こんなところで、」
「あまり、無防備に叫ぶと危ないわよ?」
遠くの方から声が聞こえた。
「何者だ?」
ニカルが呼びかけるが意識を失った。
不思議な夢見た。
「こ ら、 じ り だ。」
ノイズが多くはっきりとしない。
「 め ジ、 っ しない。」
「なにこの夢。気持ち悪い。」
バッと起き上がる。
「ハァ、ハァ」
「大丈夫か?ひどくうなされていたぞ。」
ニカルが話しかける。汗をすごくかいて、髪もすごく乱れていた。
「ここは、どこ?」
一呼吸置いて、あたりを見回す。いつのまにか気を失っていたのだろう。
「ここは、ビル?」
廃ビルであろう。何年もの間人の手がつかない状態だったのだろう。壁の塗装は剥げ、ところどころにヒビが走っていた。窓もガラスが割れ、枠組みがかろうじて残っている状態だった。
「うっ、」
少し吐き気を催した。あのことを思い出してしまった。早乙女との闘い。・・・一心不乱だった。あの光景がフラッシュバックする。親友が目の前で・・・殺された。
「ハァ、あれは、現実なの?信じられない、」
髪をかき乱しながら、ジタバタする。
「色々と、すまぬ。・・・我が小娘をよんだばかりに、」
胸ポケットにいる、ニカルが申し訳なさそうに声をかけてきた。
「私の方こそ、目の前で起こったことが現実とは思えなかった。今考えれば、急いで契約?しちゃった。」
「・・・我もびっくりだ、契約についてはよくわかっていないが、・・・急だった。」
二人とも黙り込む。
「身体に異変はないか?」
ニカルに聞かれ、アリスが確認をする。確かに、あの時は興奮していて、後先考えずに、行動してしまった。
「一応、なにも変化はないみたいだけど。契約ってなにをしたの?」
「うむ。我の力が使えるようになったみたいだな。」
「力?」
キョトンとした声がでた。
「うむ。我のあの力、ウソのオーラが見えると言うやつだ。」
「あのオーラがみえるってやつ本当なの?」
びっくりして聞き返した。
「信じていなかったのか、」
ため息をついて話を続けた。
「契約の影響だろう。片方の目の色が、黒色から、赤っぽい色にかわっているみたいだな。」
「え?ウソ?」
慌てて確認しようにもしても、鏡もなければ反射するようなものもない。
「どっちの目?」
自分で確認できないため、ニカルに聞いた。
「左側の目だな。」
「これが、契約の代償?」
ふぅーっと一息ついた。
「そうなのかもしれんな。」
「まさか、契約してないのか?」「きみはどっち側なのかな?」「僕達とこの世界を救済しようよ。」
ズキンと頭痛が走り、早乙女の言葉が思い出される。
「うっ!」
「ここから、移動しないと。」
ゆっくりとベットから立ち上がった。
「あんなことがあったあとだ、今はきちんと休め。」
「そうしたいけど、こんな場所でゆっくり休んでいられる状況じゃないでしょ?」
「ここがどこかわからぬのに、行動するのか?」
「うっ、そうだけど、」
ニカルの言う通りだ、あまりにも危険すぎる。
ベットから降りて、窓まで歩く。足元には、ガラスの破片が散らばっていた。どれくらい時間が経ったのだろう?
「誰に助けられたんだろう。」
「それは、我にもわからぬのだ。」
「あっ、そうだスマホ、」
制服のポッケに手をいれ、探す。
「うそ、無くした?」
あの時の電話の時まではあったはず、早乙女との闘いまでの間でなくしてしまったのだろうか?
「ハァ」
ベットに戻りため息をつく。沈黙の時間が流れる。
「何者だ?」
「え?」
バット顔を上げる。
入り口の方からコツコツコツと足音が聞こえる。ベットの上から起き上がり、ニカルを握りして構える。足音がどんどん近づいてくる。「ゴクリ」とつばを飲み込む。ニカルを持ち戦闘体制をとりながら入り口をじっと見る。
「ほう、ここにいたか。」
足音の人物が入ってきた。ローブを羽織っており、髪は銀色、目の色は左が赤、右が紫、赤紫色の服に身を包んだ、少年のような見た目をしていた。
「誰?一体あなたは、なにが目的なの?」
「目的?ふむ。目的か。」
少年がニヤリの微笑んだ気がした。
ゾックっと鳥肌がさかだった。ニカルがレイピアの姿へと変化した。
「うわっ!ちょっと!」
「こやつは、危険だ!!小娘!早く逃げるぞ!」
「え?え?」
状況が判断できず、困惑する。
「へぇ。コイツは面白いれぇ。」
目の前にいる少年が見下すように話す。
「わぁ。っとと、」
「どうした?小娘。しっかりしろ!!」
アリスは動揺しているのか、ニカルをしっかりと握ることができない。
「あの時は、しっかりしておったではないか!」
「そんなこと言われても、うわっとと。」
「どうやら、まだ力の扱いに慣れていないようだな。コイツは好都合だ。彼の方のために糧となってもらおうか。」
少年が不敵に笑いながら、フードを脱ぐ。手をかざした先が黒いモヤが発生し始める。モヤがどんどん広がっていき、中から銀色に輝く一つの武器が急に現れた。
「え?なにあれ?どういう原理?なんで急に旗なんで出てくるの?」
少年が取り出したのは、持ち手から帆の先まで銀色になっており、帆の色が黒色になっている。旗だった。
ゴロゴロドッカーン、外で再びカミナリと共に大雨が降ってきた。
「さぁ、お前は少しは抗ってくれるんだろうな。思う存分楽しませてくれよ。」
少年は旗をくるくる振り回して襲い掛かってきた。
「くっ!」
ガキィーーーンっと旗とレイピアがぶつかる。
「うわっ!」
「しっかりせぇ!小娘!」
ニカルが大声を出して、アリスを鼓舞する。
「そんなこと言われてもぉー」
ニカルとアリスが話している間にも少年の攻撃の手が緩むことはなく襲いかかってきていた。
「くっ!このままでは、攻撃される一方だ。小娘にはなんとしても生きてもらわないといけん。」
ニカルが考えを巡らせるが一向にいい案が出てこない。
「へぇ。面白れぇ!面白れぇ!楽しませてくれるじゃねぇか!!」
「怖すぎるんだけどぉー。」
少年は、笑いながら、さらに攻撃を激化されていく。
「小娘!あの出口だ!あそこからなんとしても逃げるぞ!」
少年と交戦をしながら、周囲を観察し一つの案が思い浮かんだ。
「へぇ!随分と面白い武器じゃねぇか。」
「どうやって!逃げるのよぉ〜。」
「少し、力を込めておれ!」
「え?」
アリスがレイピアを持つ手に力を込める。
キィーーンっと音を立てて、少年を吹っ飛ばした。
「今だ!!全力で走れ!小娘!」
少年との距離が少しできた僅かな隙を逃すまいと言わんばかりに、アリスは出口へと向かって足をすすめた。
「へぇ。なるほどな。少し遊んでやるか。」
少年がニヤリと笑った気がした。
「黒き旗の元に集え!漆黒の亡者どもよ!」
ドン!だと大きな音を立てて地面に旗を、掲げた。
「小娘!走れ!」
音に反応してしまい、足を止めてしまった。
地面に掲げた旗から再び黒いモヤが発生し始める。
「え?え?」
目の前で起きてることが現実とは思えず。呆然としてしまう。
黒いモヤがあたり一面にどんどん広がっていく。モヤがだんだん異形なモノへと姿を変えていく。
「な、なにあれ。」
アリスの足は完全に止まってしまった。
「グルるるる」
唸り声を上げて黒いモヤから3体?三匹?の獣が姿を現した。
「ちっ、まだ一人ではこんなものか。」
「くっ!気をしっかりもて!小娘!」
ニカルの呼びかけに我を取り戻した。
「早く逃げるぞ!とにかく出口に向かって走れ!」
「この状況で?嘘でしょ?」
「ここで死にたいのか?」
「そんなの嫌に決まってるでしょ!」
ニカルをぎゅっと握り直し、構える。
「ほう。そうか、まだ抗うか、その抗いが我らの救済を加速させる。」
「救済?こやつもまた・・・」
「さぁ、覚悟は決まったか?」
グルるるると少年の周りの獣が唸っている。
「うっ、」
「さぁ、黒き旗の元に我さ救済の糧となれ!」
少年が再び旗を地面に掲げたと同時に黒いモヤが大きくなり、獣が襲いかかってきた。アリスがレイピアを構えた瞬間。
ゴロゴロドッカーン!っとカミナリが落ちたと同時に大きな地響きが響き渡った。
「え?え?」
数秒の沈黙が流れた後、建物がグラグラと音を立てて崩れ始めた。
「まさか、この建物に落ちたのか?」
天井にヒビが走り始めた。
「小娘!とにかく出口に向かって全力でさしれ!振り返るな!」
「わかってるって!」
建物が崩れゆく中、出口に向かって、走り始めた。
「逃すわけねぇだろ!」
獣が後を追ってきた。
「振り返るな!とにかく全力で走れ!」
「ちっ!」
建物が完全に崩れた。
「これからどーしよ?」
「あまり得策ではないが、また隠れられる場所まで逃げるしかなかろうな。」
「そうなるわよね。」
なんとか建物から逃げてまた途方もなく逃げる。雨の中夜の暗い道をとにかく走る。
完全に崩れた建物を見ながら二人の人物が話していた。
「カミナリが落ちたから、まさかと思って様子を見にきたけど。ここも見つかったみたいだね。」
「そうみたいね、それにしても彼女はどこにいったのかしら?」
「あなたのその力を使えばわかるでしょ。」
「それもそうね。・・・でもここで使うのはちょっと危険よね。」
「一つ分かったのは、あの子もこっち側ってことだね。」
二人の人物はゆっくりと崩れた建物を背に立ち去った。
「なぜ、助けた?」
崩壊に、巻き込まれたはずの少年が謎の人物と共に立っていた。
「あなたは、我らの救済のためには必要な力なのよ。」
「彼の方の復活には誰一人欠けてはならない。」
少年ともう一人の人物は暗闇の中に消えていった。