「目覚め」
「ふわぁ〜」と大きなあくびが響く。
いつもどおりの朝通学路をアリスはトボトボあるいていた。
「なんだ。寝不足か?」
制服の胸ポケットにある。あのシャープペンシルが話しかける。
「誰のせいよ。全く。」
ため息混じりにつぶやく。あの後、散々だった。
昨夜、夕食を食べ、お風呂に入り、パジャマに着替えて自分の部屋の机の上にシャープペンシルを置きあらためて話をした。
シャープペンシルの話によると、目覚めた時には、あの店のショーケースの中にいて、自分がシャープペンシルになっていた・・・らしい。
「そんな、話信じられない。」
アリスが頭を抱える。
「・・・まぁそうだろうな。とりあえず、外に出る為にずっと声が聞こえる者に呼びかけていた。」
「・・・っそれが私だったってこと?」
眉間に皺を寄せ、シャープペンシルを見つめながら聞く。
「うむ。声が聞こえてくれれば誰でもよかったのだが。」
「え?それじゃ誰でもよかったってこと?」
アリスがシャープペンシルをといただす。
「・・・だが全ての者に声が聞こえてるわけではないみたいなのだ。」
「そんなのどう信じればいいのよ。」
アリスが頭を抱える。
謎のあの館そして、目の前には声をだせる?謎のシャープペンシル。今日の出来事は全て夢だと思っていた。それにあの店主の言葉。「声に導かれ者。」とはどういう意味だったのだろう。
「はぁ、もう何が現実で何が夢なのよ。」
深く考え込む。
ふぅ。と一息ついて、シャープペンシルをじっと見つめる。一つの純粋な疑問が浮かんだ。
「そういえば、きになったんだけど。」
机の上に置かれたシャープペンシルに話しかける。
「なんだ?」
アリスの声に反応して、シャープペンシルも応答する。
「あなたは、本物なのよね?」
「あぁ、そうだが?」
「んじゃ、シャーペンとしてはつかえるの?」
そう。シャープペンシルであれば、普通に使用することが出来ると思った。
「まぁ。使えるとは思うが、一応試してみるとよい。」
「それじゃ。やってみますか。」
カバンからノートを取り出し机の上に置いた。カチッカチッっとシャープペンシルの芯を出してスラスラとノートに文字を書いてみた。
「なるほどね。確かに使えるみたいね。」
アリスはシャープペンシルを机の上に置き直した。
「ところで、あなたには何が特別な力あるの?」
あんないかにも怪しい館に売っていたのだから何があるのかもしれない。キラキラした目でシャープペンシルを見つめる。
「力?とな」
不思議そうにシャープペンシルがかえす。
「力なのかはわからんが、人のウソや隠し事がわかるのだ。」
すこしの沈黙の後シャープペンシルが答えた。
「ウソや隠し事がわかる?そんなことできるの?」
予想外の返答だった。今日あったばかりでいきなりそんなこといわれても信じられるわけがない。
「なら、私のウソもしくわ隠し事がわかるってことにはなるのよね?」
シャープペンシルにといただす。
「あぁ。そうなるな。まぁ正確には内容はわからないが、オーラがわかるという感じなのだが。」
「オーラ?雰囲気のようなもんってこと?」
「そんなような感じだ。」
「ふーんそうなんだ。」
ひきつった顔で答える。それにしても、不思議な縁ね。
「とりあえず普通にシャープペンシルとして使えるなら、学校に持って行ってもよさそうね。」
家に置いておくより自分で持っていた方がいいと思った。
「一つ言い忘れたのだが、我の声は一部の者にか聞こえんし、我の姿を確認できる者も全員ではないぞ。」
忘れてようにシャープペンシルが話した。
「1番大事なことじゃん。」
思わず大きな声をだしてしまった。
「アリス?どうしたの大きな声出して?」
母親が下の階から声をかけてきた。
「ううん。なんでもない。ごめんなさい。」
心配してきた、母親に声をかけ、シャープペンシルに眼を向ける。
だが今のではっきりした。このシャープペンシルの言う通りだった。わたしには聞こえてる。だけど母親には聞こえてないみたいだった。
「どうしよう?」
なんとか不自然なく学校に持っていく方法として、制服の胸ポケットに入れていくという考えを思いついたのだった。昨夜のこともありアリスは全くと言っていいほど眠れなかった。
「一応言っておくけど、学校内で周りに誰かいるときは話しかけてこないでよ?」
「・・・善処する。」
「本当に頼むわよ。」
ぶつぶつ小声で語りながら、通学路を歩く。こういう何気ない会話も周りからみれば独り言となっているのかと考えてしまう。
「おは、アリス」
後から、親友の有数が挨拶をしてたきた。
「あっ、おはよう。」
そうだ、いつも通り普通に生活してればいいんだ。
「どした?アリス寝不足?」
有数が首を傾げる。
「ううん。なんでもない。いこっか。」
通学路を歩いて、学校に向かう。
「あれ?なんかひとだかりできてる?」
そろそろ学校に着くところで、アリスが校門前にできている人だかりを見つける。よく見ると集まっているのは、この学校の女子生徒ばっかりだ。人だかりの中心を見てみると、学校指定の上下黒色の制服を身に纏っていて、肩にバッグをかけている、一人の男子生徒が立っていた。
「誰だっけあの人?えっーと確か。」
アリスが名前を思い出せなく考えていると。
「あ。早乙女先輩」
有数が男子生徒の名前をだしてくれた。
「あの人が早乙女 ジュリアさんなのか、ねぇ。有数?周りの女性は?」
剣道部のエースとして活躍してた。もう一つ肩にかけてるのは、剣道で使う竹刀だろう。
学校内以外でほぼほぼ会うのが初めてなので目の前の光景を不思議におもってしまう。
「そっか、アリスは初めてだっけ?あれ一応先輩のファンクラブってやつ。」
「ファンクラブって実在するんだ。」
初めて、ファンクラブというのを見ていて感動していた。
「ファンクラブとな、なんぞそれは。」
胸ポケットに入れているシャープペンシルが話しかけてきた。
「ちょっと今話しかけてこないでよ。」
小声で話す。幸い有数には聞こえないみたいだ。そういえば有数って早乙女さんと付き合ってるんじゃ。そんなことを考えていると。円の中心人物早乙女 ジュリアと目があった。アリスの方に早乙女先輩が近づいてくる。早乙女が歩くと自然と囲っていたファンクラブの女性達が道を開け始めた。スタスタスタとこっちに近づいくる。
「やぁ、おはよう。有数。」
アリスたちの側に来て、笑顔で挨拶をしてきた。
「あっあっ。えっーとおはようございます。ジュリア様。」
有数が耳まで真っ赤にしながら挨拶をした。
(そっか付き合ってるんだもんね、そりゃ照れるわな。)
「ところで、そちらのお嬢さん。お名前は?」
アリスの方に視線を向けて聞いた。
「えっと、あっ、佐藤 アリスって言います。よろしくお願いします。」
とりあえず挨拶をした。
「佐藤 アリスさん?確かこの学校の二年生で、隣にいる有数とは同級生だったね。」
アゴに手をつけながら答えた。アリスは驚いた表情をしてしまった。
「あはは、ごめんね。生徒会の時に全生徒の生徒名簿をみて顔と名前だけおぼえてたんだよ。びっくりさせちゃってごめんね。」
軽く笑いながら答えた早乙女に拍子抜けしてしまった。
「おっと、もうすぐホームルームが始まってしまうね。それじゃまた縁が有れば、お会いしょう。」
くるりと回転をして、学校へ向かっていった。暫くの沈黙が走った。予鈴が鳴り響き我にかえった二人は急いで教室へ向かっていった。
(気のせいだよね。早乙女さん振り返る時に一瞬わたしの胸ポケットにあるシャープペンシルに視線をむけた?)
「ただいまー」
学校が終わり、家に着いた。リビングでは母親がテレビをみていた。
「あら、おかえりなさい。」
テレビでは夕方のニュースが放映されていた。
「最近おおいわよねぇー」
夕飯の時間まで自室で時間を潰そうと上がろうとしていたとき、母親が独り言のようにつぶやいた。
「なに?どうしたの?」
普段は気にならないが、なぜかきになってしまった。ニュースでは、最近多発しているという。女子高生連続失踪事件を放映していた。ここ数日で、何人もの女子高生が行方不明になっているというのだ。ニュースでも本日も新たに一名の女子高生が行方不明になったと放送されていた。
「あんたもきをつけなさいよ?」
「はーい。」
不気味すぎる事件だ。
「キミガワルイネ。」
アリスはそう呟いて、2階の自室へと向かった。
ガチャっと自室のドアをあけ部屋に入り、ベットに横たわる。
「・・・もう、しゃべっていいわよ。」
仰向けになりながら、胸ポケットに入れているシャープペンシルに話しかけた。
「もう、いいのか?」
「うん。わたし一人だから。」
ふうと一呼吸おいて、シャープペンシルは喋り出した。
「お前も感じたか?あの早乙女という男の行動。」
話は先程の連続失踪事件ではなく、朝学校であった。早乙女 ジュリアの話題になった。確かに朝の行動がきになった。ほんの数秒だったが、彼の行動に違和感を感じた。
「もしかしてだけど、早乙女先輩にあなたの姿がみえてたの?」
アリスはシャープペンシルに聞いてみた。
「確実とはいえんな、視線は感じたがはっきりと視られたという感じはしなかった。」
やっぱりシャープペンシルも視線を感じていたようだ。あの視線は間違いではなかったことが確認された。
「その、あんたのオーラ?とやらでわからなかったの?」
シャープペンシルのオーラが有れば、ウソや隠し事がわかるはずだ。
「確かに、わかるのだが・・・視ようと思ったらもう既に、離れてしまったの視ることができなかったのだ。・・・すまんな。」
「そうなのね。なら、仕方ないか。」
とりあえず、早乙女 ジュリアにもう一度会う必要があるみたいだ。しかも、今度は長い時間いる必要がある。しかし、どうやって?そもそも学年が違う為、学校内で会う時間はほとんど無い。かといってファンクラブに入って近づくにしても、人数が多い為、一対一になることはあまり無いとおもう。
「うーん。」
考え込んでも答えはでてこない。
「無理に近づかなくても良いのだぞ。一瞬でも視ることができれば良いのだ。」
「簡単にいってくれるわね。」
頭ではわかっているのだが、それがムズカイシ。
「もう一つ願いがあるのだが。」
「なによ?」
「いつまでも、シャープペンシルと呼ばれ続けるのはむず痒い。何か名前をつけてくれんか?」
確かに一理ある。いつまでもシャープペンシルと呼んでいては大変だ。
「そんな急にいわれてもねぇ。そうねぇ。ニカルとかどう?」
「ニカルか、ほぅいい名だな。気に入った。」
とある一室。暗闇の中1人の女性の声が響く。「きゃあっ!!・・・やめてぇ!だっ誰かぁ。助けてぇ!」
「はぁ、全く手間取らせないでよ。」
涙目の女性の前に一人の人物が近づく。その手には剣が握られていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、やっやぁぁー」
女性が叫んだ瞬間。剣が光輝いた。まさに一瞬で、女性の姿が消えた。
「ふふ。これで、また救済へ近づいた。さぁ、彼女はどっちにつくかな。全ては、あの方のため。」
暗闇の中高笑いが響く。