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BURNING Ⅳ

 翌日、腹の虫の収まらないのをなんとか収めて、裕二は仕事に没頭しようと出勤すれば。

 社長に呼び出された。

「武藤君、少し話がある」

 と、社長室に入れば。なぜか会社の重役以下数名が控えていた。みんな、強張った顔をして裕二を見ている。

 訳がわからないまま、話を聞けば。

 突然の解雇通知。

 それと一緒に出た、社長の言葉。

「君は昔、暴力団に所属して数々の違法行為を重ねていたそうだね」

 裕二は一瞬頭が真っ白になった。これは、秘密にしていたはずだ。いわんや、向こうの方でも黙っててくれているはずだ。なのに、それが仕事場にばれているなんて。

「そ、それは……」

 裕二らしくもなく、狼狽して何か社長に言おうとすれば。社長は首を横に振った。

「言い訳は聞かん。だまって、辞めてくれるな?」

 それから、次々に重役たちからも、異口同音に。

「辞めてくれ」

 を連発された。

 所属はしてないが、下で働いていたのは紛れもない事実だ。だから、言い訳のしようがなかったし、ここまで知られていれば嘘をついても、いずれはばれる。

 だけど、どうしてこの事が漏れた? そう思ったときタイミングよく、社長が言ってくれた。

「ここ数日、誰だか知らないがそういう電話が何本かあったのだよ。嘘か本当かはわからないし、イタズラかもしれないから無視していたが。あまりにもしつこく掛かってくるんでね。真相はどうあれ、君がここにいれば会社が厄介ごとに巻き込まれる危険性もある」

 一息、もといため息をついて、社長は理由を語った。その間、裕二は石のように固まって黙って聞くしかなかった。

「武藤君、わしも辛い。君は真面目で優秀だったからな」

 結局、今月働いた分の給与を現金で渡され、必要な書類は後日郵送することで。そのまま会社を後にしなければいけなかった。

 途中、同僚たちの自分を見る目は、白かった。

 どうやら会社中にこのことは知れ渡っているようだった。

 もう、この会社には戻れない。いわんや、次の就職先も見つかるかどうか、というより、雇ってもらえるかどうか。

 裕二がドラテクの他に得意とする特技は溶接だけだ。それが、唯一社会に通用する特技だ、それを思えば次の就職先も鉄工所しかないだろう。

 だが、もしかしたら、同業種の会社の間でこの話は広まっているかもしれない。だから、雇ってもらえるかどうかわからなかった、下手をすれば面接すら受けられないかもしれない。

 訳のわからないまま、港から追い出され、その翌日に会社をクビにされて。一瞬にして裕二は居場所を失ってしまう形になってしまった。

 社長の言った最後の言葉も慰めにならない。

 これからどうやって生きていくんだ? と、言いようのない絶望感が一気に胸に押し寄せる。

 アンダーグラウンドの世界はもちろん、カタギの世界すら、追い出されてしまって。

 アパートに帰り着き、作業着を脱ぎ捨て。下着のまま、絶望感に押し寄せられ押し潰されるように壁にもたれて座る。

 まだ日は高い。なのに、アパートに引き篭もらねばならないとは。そのアパートだって、いつまでいられるかわからない。

 どうしてこうなってしまったのか。ただそれだけを考える。ぐるぐるぐるぐる、とそれだけが頭の中を回る。考えれば考えるほど、怒りが沸いて来る。

 時計の針は十二時をさしているが、それすら気付かず。

 次に時計を見たときには、二時をさそうとしていた。

 そんな中、いつの間にか出てきて、ひっきりなしに頭に浮かぶ人の名前。

 朝倉真三。

 その名前が強く、脳みその中を引っ掻き回してくれる。かき回してくれる。

 その度に、目が見開かれ、瞳が異様に光りだしているようだ。

「アホンダラが……」

 我知らず漏れる声。

 それから着替えて、押入れの中にあるダンボールの箱を取り出した。

 ダンボールの箱を床に置き、中から取り出したもの。

 それを手に握る。ずしりと重みがあり、不気味に黒く光っていた。


 裕二は鋭くそれを睨みつける。

 その名はトカレフ。しかも一つではない、二つもある。

 かつてソビエト軍が正規に採用していた高性能銃だ。ソビエト連邦の崩壊と共に、裏ルートを通じて各国に流れた。もちろん日本にも入ってきた。

 中国製の悪性コピー品のバッタもんも多いが、裕二が手に握るのは、紛れも無いソビエト製だった。

 かつて、ソビエトの軍人が所持し、撃っていたもの。ひょっとしたら、人を撃っているかもしれない。それが、今は裕二の手にあった。

 朝倉の下で働いていたとき、万一に備えて、朝倉にも零にも秘密にして。裏ルートから仕入れた。

 カネさえ出せば、なんでも売ってくれるヤツなんてごまんといる。運び屋をしていた頃はなおさらだ。

 秘密にしてもらいたけけりゃ、倍額で買い取ればいい。あの頃はそれが出来た。

 弾もダンボールの中にたんまりとある。しばらくは、トカレフに働いてもらうことが出来る。

 それを確認すると、押入れにまた手を突っ込んでナップサックを取り出した。その中にさっきのトカレフと弾を詰め込み、立ち上がると。今度はタンスに向かい、タンスの一番上の段を開ければ。

 中にごっそりと一万円の札束が詰め込まれていた。文字通りのタンス預金だった。

 それもまた、ナップサックに詰め込んだ。詰め込まれ、しわくちゃになろうがお構いなく。カネとして使うことが出来りゃそれでよかった。

 このカネを手に入れるために、今までしてきたこと。それが、走馬灯のように浮かんでは消え、を繰り返す。

 ついでに、「走馬灯」という漢字を思い浮かべ。とりあえずは知能は著しく低下していないことを確認した。

 今の自分はかなり、「おかしくなっている」。そのまま、頭に思い浮かぶことを実行しようとしている。その前に、ちょっとした知能テストをした、というわけだ。 

 でも途中頭に来て、ナップサックを床に叩き付けた。それにはたと気付き、またカネを詰め込む。

 さらにさっきの行動に気付き、喉から押し出される言葉。生まれてこのかた、今まで以上に自分に素直な言葉だった。

「アホンダラが…」

 その頃、零は仕事中に上司に呼び出されて、造船所の事務所へと連れて行かれた。

 みんな怪訝な顔をして零を出迎える。視線がやけに冷たかった。

 昨夜港でも同じ視線を浴びた。思わずこっちは背筋が寒くなる。

「柳生君……、実はね……」

 から始まった、上司の言葉。その言葉は、零の背筋のみならず心臓をも凍りつかせそうだった。

 言葉と共に差し出される、解雇通知。そして、その理由。

 昔暴力団に所属して、数々の違法行為に関わった。と、いうこと。そんな電話が頻繁にかかってきて、厄介ごとを避けるための、止むを得ない処置だと。

 それ以外に誰も言葉を掛けてくれず、それ以前に、冷たい視線を浴びせるのも嫌になったか。誰も零に見向きもしなかった。

 思わず握り締められる拳。

 結局、頭を下げて、その場から立ち去るしかなかった。

 自分のアパートに戻ると、喉が異様に渇き。水道の蛇口をひねり、水をたらふく飲んだ。水で胃がパンクしそうなほど、飲んだ。

 それでも、水を飲み続けた。口元から溢れた水がしたたり落ちて、喉もとや胸元を濡らし、そこがひんやりする。

 まるで幽霊にでも触れられるかのように、冷たさを感じた。それに気付き、手に握るグラスを床に叩きつけた。グラスは割れて、破片が飛び散る。

 それが黒い瞳の中に焼付けられる。

 破片一つ一つが、部屋に入り込む陽光に反射しきらきら光る。

 それもまた、瞳の中に焼付けられる。

 すると何かに弾かれたように服を着替え、押入れに隠していたカネをバッグに詰め込んで。スカイラインに飛び乗ろうと、駐車場に向かった。

 どうすれば良いのかわからないが、今は車に乗ってどこかに行こくしかなかった。でも、その車のために、今こうしなければいけないことに。

 今更、自分のしてきたことがどんなことか、やっとわかったのだった。



 零はスカイラインを飛ばして裕二のアパートへと向かった。

 ここから逃げようと車に飛び乗ったものの、裕二がどうなっているか気にかかる。おそらく、自分と同じようなことになっているかもしれないのは容易に想像がついた。今までのことを考えれば、間違いはないだろう。

 逃げるなら身軽な方が良いに決まっているが、「アイツ」のことだ。おめおめと逃げ出すなどしないだろう。

 どうせ逃げたって、朝倉らが黙って見送ってくれるとも思えなかった。もし、万が一。しはしないが、恐れをなして警察に逃げ込めば、今までのことを全て吐き出すことになるだろう。

 そうなれば、生かしておくことは出来ないだろうから、全てを闇に葬りにかかるだろう。

 ならどうする? そう、やるっきゃない。なにをやるのかわからないが、やるっきゃないのだ。

 アパートに着いた。車から飛び降りて、部屋に向かう。

 部屋に着けば、ドアをノックして。

「武藤、いるか? オレだ、柳生だ!」

 と、中にいることを願って呼びかける。

 だが、反応が無い。

「あれ? いないのか」

 ちょっとだけ、絶望感が顔を覗かせる。それを無理やり引っ込めて、またノックしようとすれば。

 かちゃ、っとドアが少し開いた。

「なんだ、いたのか…、って……!」

 少し開かれたドアの隙間から、裕二が顔を覗かせると。石になってしまった。

 どす黒く感じる狂気じみた裕二の顔。その手に握られるトカレフ。

 そのどちらからも石化させられて、動くに動けない。

「柳生、お前もか…」

 と、奥底から湧き出るような小さな声の静かな問いかけ。

「やっぱり、お前も……」

 と言う零の胸倉を掴んで、蟻地獄に引きずり込むように引っ張って中に入れる裕二。

 夕暮れ時の部屋は明かりもつけられず、ほの暗い。余程手入れをコマメにしていたのだろうか、そんな中でトカレフだけは不気味に黒光りしていた。

「なんだよ。それ…」

「鉄砲だよ」

 少し小ばかにするような応え。裕二はもう一つのトカレフも手に取り、香港映画さながらの二丁拳銃の構えで零に突きつけた。

 慌てて大声になりそうなのをこらえ、声を恐怖心と一緒に押し殺し搾り出す。

「ま、まて。落ち着け。オレも朝倉にやられたんだ、さっき仕事をクビになったんだ」

 その声は裕二の耳には入ったようで、なにやらため息をつく。意味が理解できたようだが、首を横に振る。

 夕暮れ時のほの暗い部屋にあって、目は血走りぎらつき。水を打ったような静けさの中、目の中を血走る血流の音が聞こえてきそうだ。おまけに二丁のトカレフ。

 様子を見、状況を推し量って。

 零は絶望の淵に飲み込まれようとしていた。



「オレは落ち着いている。お前のほうこそ落ち着けよ」

 呆れたように、トカレフを向けられ何やらカチンコチンに固まった零をさとす。

「オレが落ち着いてなかったら、問答無用でお前を撃ち殺してるだろうが」

 それを聞き、はっとして。肩の力を抜こうとする零。だけど、どうしても力が抜けない。

 それを見て。

「まったく、情けねぇなあ。お前にもこれ貸そうと思ってたけど。やめた。暴発ぼうはつでもされちゃたまらん」

 と、二丁拳銃を構えたまま、いかにも情けなさそうにうそぶく裕二。

「無理言うなよ。拳銃突きつけられて、落ち着いていられるか」

「ま、そうだがよ。確かにこれは本物さ。だがな、その前にモデルガンかどうかすら疑わねえ、見たまんま素直な反応しやがって。オレはそれが言いたいんだよ。ここは日本だぜ」

 反発するも、またも言い負かされの零。さすがに本当に自分が情けなくなってきた。

 それを見て、裕二は拳銃を下げ。床に腰掛ける。零も続く。

「まったく、朝倉にイッパツかましたいから来たんだろ?」

 裕二はポケットからタバコを取り出し口にくわえ、火をつける。ほの暗い部屋が一瞬だけともされる。

「あ、ああ。そうだ。そうだとも……」

 強張る零の顔面。朝倉の名を聞いて、わなわなと震えだす。その震える唇から押し出される言葉。

「アイツはオレらの首に縄掛けて、良いように使いたかった……。それに逆らえば、お仕置きする」

「そうさ。それで、オレらお仕置きされたのさ。クソ熱いお灸をすえられたのさ」

 零同様、地の底から押し出されるような、怒りのこもった声を押し出す裕二。

「何も知らない他の連中には、あることないこと言ってオレらを『のけもの』にするよう言ったんだろうな」

「サツの犬だとかな…。まったく、ヤツらのやりそうなことだ」

 おかげで居場所を失くし、行く当ても無い。全てを失いかけようとしている。だけど、その一因は、欲に駆られた己の愚かさのせいでもあって……。

 こんなことになるなら、あの時、最初東条に誘われた時断っておけば。と言っても、思いっきり後の祭りだ。それ以上に、その時はその時で、たんまり稼ぎしこたま楽しんだ。ふとそれを思い出すと、ふたりは頭を抱えたくなる衝動に駆られてしまう。

 裕二はため息をつき、言った。

「もう、ただの車好きなコゾーだったころには、戻れねぇんだな……」

 ふと、脳裏に浮かび上がり口より紡ぎ出された言葉。

 全ては車で走りたいがため、それだけだった。好きな車を乗り回せればそれで満足だった。それこそ、あの夜現れたガキのように。

 それなのに、なんでこんなことになっちまったんだろう。

 そんな自分たちに出来ること、しなければいけないこと、やろうとしていること。もう、後先のことなど考えられない。考えるつもりもないし、考えたくもなかった。

 頭を抱えたくなる衝動を向けるその先は、もう決まっている。

 どうせどっちに転んだって、悪い結果しか待ち受けていないのは火を見るより明らかだ。サツに捕まるか、路頭に迷うか。

 留まるも地獄、進むも地獄。ならば、ならばいっその事……。

 裕二の目のギラつきが一段と強くなり、激しい憎悪のこもった目でトカレフを睨みつける。つられて零の目の光の強さも増してゆき、拳が強く握られる。

「しかし、ま、ここでお喋りして無駄な時間を潰すこともねえだろ」

「そうだな」

「行こうぜ」

 と、タバコをくわえたまま、おもむろに立ち上がりトカレフをズボンに突っ込む裕二。奥からナップサックを取ってきたと思ったら。

 そのまま玄関ドアを開け、外に出る。慌てて続く零。

 零はスカイラインのもとまで向かい。裕二はアパートの駐車場で、キーを手に取りプリメーラのドアを開けようとする、タバコはくわえられたまま。

 その時。裕二と零がアパートから出てくるのを待ち受けていたかのように、男と女が車に近付こうとしていた。



「ちょっと待て」

 と、どこからとも無く現れて声を掛ける謎の男性。懐からなにやら取り出す。

 それは警察手帳だった。男は私服警官だった。

 気がつけば、零にはスーツ姿のショートカットの女性が話しかけていた。疑うまでも無い、警察手帳を差し出しているところを見ると、彼女も警官だろう。

 仕事場のみならず、警察にまでタレこまれてたとは。あちらさんも、なかなか用意周到な真似をするものだが、今までのことを吐かれてもいいのだろうか。

 いや、まさか。であった。

「ん、何か用っすか?」

「ああ、大有りだから待てと言ったんだ」

 すっとぼける裕二。くわえタバコの火が消え、そのまま地面に吐き捨て、またもう一本を吸い始める。私服警官は、なめられまいと厳しい口調で詰め寄る。

「武藤裕二君…、だな」

「はい」

「よし、では任意同行願おうか」

「罪状は何っすか?」

「とぼけるな。その車見りゃわかるだろ、しこたま稼いでたそうじゃないか。それと、不法投棄の現行犯だ」

「あー…」

 裕二が、何か言おうと口を開いた、その時。

「しらねーっすよ。オレなんにも」

「つべこべ言わず、私達に着いて来てくれませんか。あなたには容疑がかかっているのですよ」

 と、婦人警官に押され気味の零が声を荒げた。いい加減うんざり、と言う感じだ。

 それを見て、裕二は可笑しそうに笑った。

「何が可笑しい。彼女の言うとおり、お前にも容疑がかかっているんだぞ」

「さいですか」

 と、言うや否や。咄嗟に取り出されるはトカレフ。さすがは警官だけあって、一瞬にして本物だとわかったようだが。

 裕二がトカレフを持っていることまでは予想できてなかったようで、目を白黒させて硬直している。

「お、お前。公務執行妨害だぞ」

「その前に、銃刀法違反があるだろうが。あんた、ただの公務員だな」

 あからさまな侮蔑の態度で、警官にトカレフを突きつけ。くわえタバコの煙を吐きかける。

 この事態に婦人警官の方も気がつき、慌て、おろつき始める。まだ若い彼女は新人で経験が少ないのだろう。

 おまけに、運の悪いことに誰もいない。まるでこの空間に四人しかいないようだ。アパートのある裏路地は人通りもなく、またアパートに住むものも少なかった。

 数少ない住人たちも、警官と容疑者のやりとりをただの揉め事と勘違いしているのか、関わりたくないとばかりに誰も出てこない。

「この地区のガラの悪さはあんたも知っているだろ。場所が悪かったな」

「なにを…」

「さあ、つべこべ言わず。そうだな、あの婦人警官のところまで歩け」

 言われるまま、仕方なく、婦人警官のもとまで歩く。零もこの事態にきょとんとしている。

「悪いことは言わん。大人しく…」

「だめだな。むしろそれはオレらの台詞だぜ」

「く……」

 呆然とする婦人警官を前に、裕二は不適に笑えば。突然警官を突き飛ばし、婦人警官にトカレフを突きつけ、人質に取る。

「お前!」

「おっと、大人しくしろ」

 何も言えず青ざめた顔のままの婦人警官。

「人質取るなら、女だな。やっぱり」

 不敵な笑みのまま、そう言って。プリメーラに乗るようにうながす。

「相変わらず無茶するヤツだ」

 婦人警官から解放された安堵感から、可笑そうに不敵に笑いながら言う零。

 警官は、ただ突っ立っているしかなかった。



 トカレフを婦人警官に突きつけ。

「さっさと乗れ」

 と言う裕二。

 彼女は恐る恐る指示に従いプリメーラに乗り込んだ。それを見て、裕二も運転席に座る。零もスカイラインに乗った。

「んじゃ、行こうか。地獄の超特急、片道切符だぜ」

 助手席で震える婦人警官におどける裕二。だけど目はマジなので、婦人警官には恐怖心しか与えない。

 それに構わずイグニッションをスタートさせる。プリメーラに搭載されたパルサーGTiRのSR20ターボエンジンが唸りを上げる。

 それに続きスカイラインのFJ20ターボエンジンも唸りを上げる。そのマシンの雄叫びは、まさに凶暴な野獣のそれそのものだった。

 傍目で見るものの心臓を縮み上げる。

 走る凶器。婦人警官の頭の中にその言葉が浮かんだ。

 全くその通りだった。怒涛のごとく街を駆け抜け、破壊をも行う。そんなのに乗るドライバーの神経が理解出来ない。こんなのに乗ってレースだなんて、怖くないんだろうか?

 そんな疑問を吹き飛ばすように、裕二の右足がアクセルを踏めば。プリメーラは走り出す。スカイラインも続く。

 置いてけぼりの私服警官は慌てて携帯電話でなにやらまくしたてている。婦人警官が人質に取られて拉致される、という事態に狼狽し慌てふためいているようだ。

 しかもヤツらは銃まで持っている。

「緊急事態だ! 総動員だ!」

 と叫ぶ声が裏路地に響き渡る。

 そんなの知るわけも無く、いや、警官を人質に取ればどういうことになるか想像は出来る。それなのに、こんなことする裕二と零に、もう歯止めなど効かなかった。

 路地裏を抜けメインストリートに出るや、全開にされるアクセル。スピードメーターの針は常に100キロ付近を差し続け。次々と一般車を追い越し追い抜いて行く。

 どこへ向かうのか? それよりもハイスピードで右に左に切り返すのと、車内に響く耳を劈く(つんざく)轟音と振動に全身をもみくちゃにされているようで、不快な気分が全身を包み込み顔から血の気が引くのがわかった。思わず口に手を持っていってしまった。

「おいおい、酔ったのか? もうすぐ着くから我慢しろ!」

 勘弁しろよ、と言いたげなドライバーの声。だけど勘弁して欲しいのはこっちの方だ。

 もうすぐ着くだのどこに行くかだの、もうどうでもいい。早く開放して欲しい。それだけが彼女の心に一杯に広がっていた。もう己の職種など頭には無かった。

 まあ、無理もねえか。素人がこんな車に乗ればそうなる。とそれなりに同情し、早く着くためにさらにアクセルを踏み込む。後ろのスカイラインも続く。さらに血の気の引く婦人警官。失神しそうだった。

 しかし、あの女よく平気だったもんだよなあ。

 ふと、零の隣に座った外人女のグレンダを思い出した。そういえば、アイツ今頃どうしてる? と思ってもそれだけで、すぐに頭から消えた。

 関係ない。もう会うことも無いだろうし。

 零は、裕二の隣に婦人警官が乗っているのを見、同じようにグレンダのことを思い出した。今頃どうしてるか、もうアメリカに帰っただろうか。そう思うと、なんだかさびしい気持ちになった。

 今まで抱いた女の中で、彼女が一番サイコーだった。美しくて豊満で情熱的なラテン系アメリカンの、とびきりのイイ女。出来ることなら、もう一度彼女を味わいたい。

 欲を言えば、グレンダとふたりで、いつか見た「ナチュラル・ボーン・キラーズ」とかいう映画のような、暴力と愛とエロスに溢れた逃避行の旅なんか出来たら面白いかもしれない。

 などと不埒なことも考えながら、暴走する。

 もう、暴走以外の何物でもない。今の状況は。それに身も心も染めて、プリメーラとスカイラインはいずこかへと、突っ走っていた。

 そんな中巻き添えが一名顔を真っ青にして、今にもゲロしそうにして。プリメーラのドライバーはそのせいで暴走に徹し切れなかったのは、秘密だった。



 朝倉は組事務所にある自分の部屋の中、ソファーに座り足を組み、のんびり爪を切っていた。

 部屋は狙撃されるのを防ぐため、窓が無く。白塗りの壁が部屋を囲む。

 派手な刺繍のペルシャ絨毯が敷かれ、隅には西洋の鎧兜一式が剣を携え威風堂々とたたずんでいると思えば、その反対側には日本の鎧兜までがこれまた槍を携え控えて。

 自身の座るソファーも白く毛むくじゃらで、いかにも「お金かかってます」と強調しているようだ。

 ソファーの前には大理石製の背の低いローテーブルが。これまた金かかってることを強調し、その上の大理石製灰皿も同じようにテーブルの上にたたずんでいる。

 灰皿の横には。キューバ産の上等の葉巻と葉巻カッターに、モエシャンドンのシャンパンとグラス。そのまた横には、ボックスがぽつねんと置かれていた。中に何が入っているかを考えた朝倉は爪研ぎの最中、にやりと笑う。

 あからさまな成金趣味な部屋の中。爪を切り終わり、爪きりのヤスリで爪を研ぐ。

 爪の研ぎ具合が良かったのか、指先をじろじろとにやけながら眺めていたら。

 部屋のドアがノックされる。

「入れ」

 の一言の後、子分が女を連れてドアを開ける。

 女は白のボディコンでキメて、豊満なボディを強調している。愛人のグレンダだった。

 子分の横をすり抜け、腰をくねらせながらハイヒールを絨毯に食い込ませて歩く。

 子分はグレンダのヒップラインに見とれながら、頭を下げてドアを閉める。

 部屋の中には、朝倉とグレンダのふたりきり。

 指先を眺め、口元を歪め、悦に浸りきりの朝倉。グレンダは自分を見てくれない「ご主人様」に頬を膨らます。

「Hey. シンゾウ」

 声を掛けられ、やっと顔を上げ自分の愛人に目を向ける朝倉。

「やあ、待ってたよ」

 と、優しく微笑みかける。グレンダは隣に座り、朝倉に寄り添い、手で胸の辺りを挑発的にまさぐり始める。

「もう、シンゾウの意地悪。呼んだのはあなたじゃない」

「はは、まあそう言うなって」

「会いたかったわ」

 と、手を取り自分の胸に持ってゆこうとする。朝倉は苦笑し手を払いのける。

「おいおい、ここでか?」

「いいでしょ、少しくらい」

 挑発的なグレンダに、朝倉は呆れたようにさらに苦笑する。

「お前の少しは信用できないな。この間なんか、声が若い連中のところまで聞こえていたらしいぞ」

「いいじゃない、思いっきり聞かせてあげましょうよ」

「馬鹿言うな、オレにも立場ってもんがある」

「ふふ、あのコたちにも『立場』があるものね」

 下らん、そう思いながら、シャンパンのボトルを開けグラスに注ぎ差し出す。

「サンキュー」

 と、受け取り少しだけ舐めるように口に含むグレンダ。

「そうそう、今夜お前を呼んだのは他でもない」

「どうしたの?」

 グラスを持ったまま、何があるのかと思う見つめるグレンダをよそに。朝倉はローテーブルにあるボックスのふたを開けた。

 ボックスの中を見た朝倉は可笑しそうに笑い、グレンダは目を見開き石になったように固まっていた。

 中には、注射器があった。



「シンゾウ…」

 声を震わせ、注射器を凝視するグレンダ。朝倉はかまわず注射器を手に取る。

「こいつが何か、ま、言うまでも無いだろう。本場出身だからな」

「じょ、ジョークはやめてよ」

「ジョーク? これがジョークか。面白い冗談だな」

 と、言うと。

「誰かいねえか!」

 と、突然大声を上げれば、子分どもがドアを開けて部屋に入ってくる。その子分の中には、東条史孝と陣野昂次郎、五十嵐賢の姿もあった。

 昂次郎と賢は史孝から朝倉を紹介されて、今や正式に朝倉の子分になっていた。もちろん、運び屋もこなす。裕二と零の後釜、と言うわけだ。が、今ここにいるその理由わけはというと。

「な、何? 何なのよ……」

 突然のことに怯えるグレンダは、目を白黒させてあたりを見回す。みんな、こっちを怖い顔をして睨みつけている。

 そんなグレンダに、嘲るように、朝倉は言った。

「今夜でお別れだから。盛大にお別れパーティーをやろうと思ってな」

「お別れって…」

 恐れから目に涙が浮かび、視界がぼやけてくる。朝倉の言うことも理解できない。白痴のように口をあんぐりとあけたままだ。そんなグレンダに放たれた言葉は、彼女を絶望の淵に叩き落すのに十分だった。

「もう、お前には、飽きたから。処分しようと思ってな」

 朝倉の言葉に、子分どもは笑う。笑い声がグレンダの脳髄を引っ掻き回す。

「だが、ただ処分するだけじゃあつまらない。だから、こいつを使って、みんなと一緒に楽しもうと思ってな」

 心臓を射抜く氷のような冷たい目と嘲笑。差し出される注射器。思わずのけぞるグレンダ。

「朝倉さん、そこまで言えば十分でしょう。早く始めましょうよ」

 子分の誰かが興奮気味に言った。これから起こることを想像し、じらされて仕方ないらしい。それに連動するように、また子分どもは笑った。

 今やグレンダは、狼の群れの中の子羊同然だった。

 その狼どもは、朝倉の合図でグレンダを取り押さえ動きを封じる。

「NO! Nononono please help me!」

「何言ってんのかわかんねーな。英語からきしダメだからなあ」

 悲痛な声に返された、非情な言葉。さらに追い討ちを掛ける朝倉の言葉。

 それも耳に入っているのかどうか怪しく、グレンダは「ヘルプ!」と叫び続ける。叫ぶたびに男どもの下卑た薄ら笑いに、全身をまさぐられる。

「オレという者がありながら、柳生と寝たじゃないか。男がたまらなく好きなんだろう。そんなお前のために、最後にこうやって集めてやったんたぞ」

 ヤギュウ? ふと耳に飛び込むその名が、あの時の夜を一瞬フラッシュバックさせる。

 あのスカイラインのドライバーだ。激しい走りでストリートレースを闘い、勝利した男。まさにグレンダにとって、ヒーローだった。レースの後一夜だけ朝倉を忘れ、甘く淫靡な夜をすごした。本当にあの夜は楽しかった。だが、そんな思い出に浸る間などなく。

 その思い出が自分自身の悲鳴に掻き消される。

 朝倉は注射器を手に、もう片方の手でグレンダの手を掴む。

「しかもだ、こいつを使えばさらにホットになれるぞ。こいつらの『立場』を満たしてやれるぞ」

 今にも針が白い肌に注入されんとする。もう、どうしようもない。グレンダは硬く目を閉じ、絶望の中、全ての終わりの到来をいやでも体全体で感じなければいけなかった。



 夕陽が姿を消して、夜の帳が街に落ちる。夜空にきらめく星はなく、そのかわりに雲が夜空を覆う。そんな中、三日月だけがどうにか雲間より、その姿をみせては消して、を繰り返す。

 そんなのお構い無しに、街を突っ走るプリメーラとスカイライン。プリメーラの助手席には婦人警官が顔を真っ青にしていた。

 今どこに向かっているのか、どうにか外の景色を見れば。ふと頭によぎる嫌な予感。

 例え仕事でも、関係したくないところが近くにある。二台の車は、そこに向かっている?

 それを思ったとき、この仕事に就いたことを後悔しそうになってしまいそうだ。職務に対する義務感より、公務員という安定した立場からやり甲斐と満足感を感じていたけど…。

 だけど、たまたまかもしれない。そうだ、きっとそうだ。と、それを確かめたくて、何とか口をあけて、ドライバーに声を掛けてみた。

「あ、あの…」

「ん、なんだ?」

 ドライバーは前を向いたまま応えた。

「どこへ行くの…? よかったら、教えて欲しいんだけど……」

 それを聞いた裕二はため息をつき、言った。

「それは言えないな。ま、もうすぐ着くけどな」

 それを聞いて、嫌な予感が的中したかもしれないと、彼女はうなだれる。ただでさえ車に酔ってしまったのに。その上行き先が、先輩方も手を焼くヤクザの朝倉組の事務所とは。

 そこに連れて行かれて、自分は何をされるんだろう、と思ったとき。どうしようもない絶望感に襲われた。

 ドライバーの血走った目、尋常じゃない。

 と、思ったら。突然ハザードをつけ、道の端によって、急ブレーキ。前のめりになって停まるプリメーラとスカイライン。

「降りろ」

 その言葉にきょとんとする婦人警官。

「え?」

「降りろ、って言っている。聞こえないか」

「き、聞こえてるわ。ほ、ホントに降りていいの」

「ああ、いいから降りな。もうあんたにゃ用はない、つか、いないほうがいい」

 どうやら、嫌な予感は外れたようでよかった。とにかく、降りていいというなら、それに従うまでだ。これ以上、怖い思いをするのはごめんだし。それ以上に、この車に乗っていたら本当に吐いてしまいそうだから。

 彼女がドアを開けて降りようとするとき。前を向いたまま、裕二は重々しげに、口を開いた。

「悪かったな……」

 その言葉を聞いて思わず振り向く婦人警官。裕二は前を向いたまま。

 凶悪犯罪者が、やけのやんぱちになってキレるのとはちょっと違う。まだ若いというのに、やるせなく、何もかも投げ捨てたかのような。

 その横顔は、さっきまで感じた狂気を湛えながらも、どこかうら寂しそうな感じもしないでもなかった。

「何してんだ。早く降りな」

 せかされ、慌てて降りる婦人警官。ドアを閉めるや否や、プリメーラとスカイラインはホイールスピンをさせながら急発進する。

 それを呆然と見送る。人質になっていたことも、職務のことすら忘れ、降りるときに感じたうら寂しそうな横顔を、つい思い浮かべてしまった。

 彼らは、どこに行こうというんだろう。暴走の果てに、何があるというんだろう。

 それは、彼女の知り得ぬことであった。

 それもそうだろう。なぜなら、彼らにもわからないのだから。


  

「今頃、あの女ヒィヒィ言ってんだろうなあ」

「ああ、後でオレたちにもおすそ分けだってよ」

「そりゃ楽しみだ。あのカラダ、むしゃぶりつきてえと思ってたんだよ」

 グレンダが取り押さえられ、今にもドラッグを注入されんとしている時。控え室で子分どもが下品な会話をしながら控えていた。

 いくらなんでも、さすがに全員一片では待ち時間が増えてしまうし。事務所が無防備になってしまう。

 業界が業界だけに、いつ何時「出入り」があるかわからない。

 今は、あの外人女の惨めな姿を思い浮かべて妄想にふけっている。

 その時。突然事務所の前で、爆音が轟いた。

「あんだぁ?」

 爆音は、何度も何度も繰り返し轟き響く。子分どもの耳に無理やり入り込む。

「どこの馬鹿だ? 組の前で空ぶかしか」

「どうせ、ガキが威勢のいいとこ見せようとしてるんだろうぜ。少し教育しちゃるか」

 と、一人立ち上がり。扉を開ければ。

「ほぅ、こりゃまた。懐かしいのがいるぜ」

 と、事務所の前に停まるは。プリメーラとスカイライン。二台が運び屋をしていたのを何度か見たし、ドライバーとも少しだけ話したこともある。

 組長の怒りに触れ熱いお灸をすえられたことも、知っている。

「今更詫び入れに来たってか」

 へらへらと、二人のドライバーがそれぞれの車から降りるのを見。とりあえず、出迎えた。

「はい、朝倉さんに謝りたいと思って、来ました。会わせてもらえませんか?」

 零が頭を下げてそう言うと。子分は、まぁだめだろうな、と思いながらも頷き、二人を中に入れた。

 その時、子分の目が見開かれた。乾いた銃声が響き、後ずさりしながら肩から血を垂れ流す子分。裕二は咄嗟の動きでズボンからトカレフを取り出し、一発目を見舞ったのだ。

「お前ら!」

「殴り込みか!!」

 銃声の後、またたくまに子分どもの怒号が響く。肩を撃たれた子分は痛みからうずくまっている。

「て、めぇ…」

 痛みにもだえながらも、どうにか声を出す子分。子分仲間は、すわ、と得物を。裕二同様にトカレフを手にして迎え撃たんとする。

 それと同時に足を踏ん張り、トカレフを両の手で構える裕二。目がぎらつき、全身に力がこもる。

 それに呼応して。二丁のトカレフが、火を噴いた。



「なんだ!」

 注射器を手に、今まさにグレンダの白く細い腕にドラッグを注ぎ込まんとするとき。

 突如として耳に飛び込む銃声。一回で終わらない。二度、三度、四度と連続して聞こえた。

 それは空耳ではなく、全員に聞こえた。それを示すように、みんな部屋のドアの方に向いている。

 皆、ドアから何が飛び出すのか気になる、と言う感じでドアをじっと見ている。

 グレンダもそうだった。

 敵か味方か、わからないが。銃声のおかげでとりあえず今は命が繋がった。このまま乱戦になり、逃げ出すチャンスがやってこないか、と淡い期待を胸に抱く。 

「人が楽しんでいるときに、邪魔をするのはどこの阿呆だ!」

 それこそ、注射器の針が肌に触れていた。そのまま白い肌を突くだけだったのに、思わぬ邪魔が入り込んできたものだ。

 能面顔が今、真っ赤になって、般若のような形相になっていた。

「朝倉さん!」

 事態を察した史孝が朝倉に声をかける。朝倉は史孝の方を、それこそ般若の面そのものの顔を向けて、言った。

「外の様子を見てくる。東条と陣野、五十嵐、着いて来い。残りはグレンダを見張ってろ」

 銃撃戦の最中、子分に行かせるんじゃなく親分が自ら進み出るとは。よほど頭に来たのだろう。そんな親分に万が一があったら、そう思った親分思いの子分が朝倉に駆け寄った。

「待ってください朝倉さん、ここはオレたちに任せて貴方は安全な場所に…」

 そう言った途端、子分の頬に朝倉の拳が飛んできた。頬を真っ赤にして、もんどりうつ子分。

「オレに命令すんじゃねえ! オレの組に殴り込み、おまけに楽しみの邪魔もされた。そんなヤツは、オレの手で始末しなきゃ気がすまねえ」

 言いながら懐からトカレフを取り出す。すると、控え室の方から子分が一人やってきた。

「そう言うと思って、親分のために獲物を取っておきましたよ」

 朝倉の性格を熟知してか、にやけ顔の子分。なるほど、もう銃撃戦の結果は出ているということか。確かに音は止んでいた。

 なら、後は始末だけ。

「そうか、よくやった。褒めてやる。あそこでおネンネの阿呆とは大違いだな」

 と、さっき殴った子分に冷たく一瞥をくれるとすたすたと歩き出す。史孝らも続く。

 控え室に来れば、なるほど、獲物がこっちを憎憎しげに睨み付けてくる。一人は銃を二丁持って、一人は後ろで控えて。致命傷にならない、軽い怪我もちらほらとしているようだ。ところどころ服が裂け血も少し滲んでいるのが見える。

 だがふたりはそんなことを気にかけることもなく、石のように固まっていた。

 朝倉はそれを見て、口笛吹いて、笑った。



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