<第96話> 飛沫血痕
「それなら次は、飛沫血痕の話を聞きたい。
飛沫血痕とは、凶器による出血を伴う犯行が行われた場合、被害者の身体から出血した血液が周囲に飛び散り、その跡が周囲に付着する事象の事だね。
しかしこの飛沫血痕が、村長から発見されたとの記載は、何処にも無かった。
それに対して、麗子夫人の写真を確認した時、彼女の顔や衣服には、明らかに飛沫血痕が付着しているように私には思えたのだが、この点についてはどう判断したのかな。」
「はい。
その点に関しましては、現在はまだ推測の域を出ておりませんが、次のような仮説が立てられています。
そもそも古閑村長は、当時の現場ではその確認作業が実施されなかったのです。
実際に警察が現場に到着した時、古閑村長は、衣服や顔にかなり血液が付いていました。
でも当時は、それは麗子夫人を移動させたり娘の曜子さんを介抱していた時に付いてしまった麗子夫人の血液と考えられていました。
しかし現在は、その村長の衣服に付着していた血液に黒部の飛沫血痕も含まれていたと考えられています。
あいにく村長の衣服は、血液跡が洗濯しても取れなかった為に既に処分されてしまっています。
この件に関しても、村長は証拠の隠ぺい工作を行っていると判断しております。
そして麗子夫人は、実際は黒部のすぐ近くに倒れていたので飛沫血痕が付着したと考えられています。
これらは、全て村長の話した当時の現場の状況とは異なっているため、これから村長に話を聞いて、改めて立証していかなければならないそうです。」
「そう、その麗子夫人が黒部のすぐ近くに倒れていたという記述だが、それなら麗子夫人のご遺体の姿勢はどう説明するのかな?
飛沫血痕は、彼女の顔や衣服の前面に付着していたね。
それならば彼女が黒部の近くに倒れていた姿勢は、当然仰向けでなければ、その場所に付着することは不可能なはずだ。
だが、夫人の死後硬直の姿勢は、うつむき加減に丸くなっていたよね。
この件は、どう解釈されているのかな。」
「それは、死後硬直が始まる前に村長が夫人をその姿勢に変えたのだと考えています。」
「なるほどそうか。
村長の帰宅時、麗子夫人はまだ生きていたという話だったね。
だからまだ夫人の死後硬直が始まる前の村長による犯行だったという説明なんだね・・・。
だがそれならば、村長は、妻の死後硬直が始まる前に石を持たせることも可能だったはずで、そうなると移送の時に夫人の手元から石が落下するような事も無かったのではないかな?」
「えっ・・・・、そう言われれば確かに・・・。
夫人の死後硬直が始まる前に村長が夫人の姿勢をうつむきの姿勢に整え偽装したと考えている現在の説では、当然同じタイミングに持たせた黒曜石も死後硬直が始まる前になるので、現場検証の移送の際に黒曜石が落下する事は、不自然な事象となりますね。」
研究員達は、青野の今の指摘に困惑の表情を浮かべ始めた。




