<第91話> 一筋の光
そんな悩める本部長に解決への糸口を与えたのは、彼が掛けた1本の電話だった。
「先日の平和公園の式典の参加や警護協力、本当にどうもありがとうございました。」
本部長が、お決まりのお礼電話を早々に切り上げようとした時、電話口の青野刑事部長から思わぬ質問を投げかけられたのである。
「そう言えば本部長、お伺いしても宜しいですか?
折しも式典の時に発生した村長宅で起きた殺人事件、あれはどうなっていますか?」
青野刑事部長といえば、警視庁で異例のスピード出世を果たしている人物と評判になっている男であった。
そしてその噂は、遠く離れたN県警本部長である彼の耳にも当然届いていた。
悩める本部長が相談出来るような人物を求めていたこのタイミングで、格好の話し相手となり得る青野が自分から名乗りを上げてくれたのである。
『刑事部長、今お時間は丈夫ですか?』の挨拶も早々に、本部長は事件の概要を話し始めた。
「現場の捜査状況では、互いに凶器を握ったまま死亡していた二人の遺体。
『その二人が互いを殺害した』という、被疑者死亡案件が2件の事件と初見では思われていました。
しかしその後の鑑定結果で、麗子夫人の凶器から古閑村長の指紋も検出されたんです。
そこで現在は、彼を重要参考人に位置づけて、『帰宅した際、遺体を動かした時に麗子夫人の手元から落ちた石を拾って、彼女の手元に戻した』と指紋が付いた理由を主張している村長の供述の真偽を見極めていきたい所なのですが・・・。
実はその村長の捜査協力が現在非常に難しい状況になっておりまして・・・。」
青野は、この本部長の話を聞く前から、自身でネットに溢れていた事件のニュースを読んで、大まかな概要を知っていた。
村長が重要参考人になっている事や、娘が意識不明のまま入院中であるという状況が個人的に気になっていたのだった。
だからこそ先程の電話口で、ニュースの真偽を確認すべく、本部長に誘い水を投げかけていたのであった。
そして青野は、村長が実際に重要参考人になっていることを確認した後、一呼吸おいてから、本部長への本題を切り出す準備を始めた。
「そうですか・・・。
お偉いさんが重要参考人の事件だったのですね。
そして現状、本人から捜査協力を拒否されたり、証人候補の娘が入院している病院から立ち入りを禁止されたりしているとは、かなりの難問に直面しているようですね。
そのような状況で、本部長殿は、因みに今後どのように捜査を進めていこうとお考えなのですか?」
「ううん!?
ああ今後の捜査方針ね・・・
そうだな、・・・・まぁ・・・、
まず娘の意識が回復するのを待って、娘から事情聴取をしていこうかと・・・
まあ、これもまだ未決定の捜査方針なんだがな・・・」
本部長は、明らかに歯切れの悪い回答を返してきた。
青野は、この回答を聞いて、彼が捜査方針に行き詰っている事を瞬時に理解した。
「そうですか。
まずは娘さんの回復次第・・・といった状況なんですね。
ところで本部長、私が事件当日にそちらに式典に伺っていたのも何かの縁だと思いませんか?
もしお差支えがないようでしたら、事件の捜査資料を拝見させていただいて、私に捜査協力をさせて頂けたりしないでしょうか?」
青野は、ついに自身の心の内に秘めた本題を本部長に伝えた。
他人事とは思えない事件に遭遇した青野は、村長がどのような人物なのか、本当に殺人を犯すような人物なのかをどうしても自身の目で確認したかったのだ。
この突然の申し出は、本部長を驚かせた。
「捜査協力ですか?
わざわざ東京にいる刑事部長の貴方が!?」
「ええ、そうです。
資料を見れば、第三者的視点から、何か良いアドバイス出来る事があるかもしれません。
もちろん、新たに何も見つける事が出来ないかもしれませんが、取り敢えずやってみる価値は無いでしょうか?」
青野は、驚く本部長が断りの言葉を口にする前に、立て続けに話を続けようと会話を繋いだ。
本部長は、この短い時間の中で考えた。
(青野刑事部長の事件解決でついた数々の異名『着眼点の天才』『見えない謎は彼の前には存在しない』・・・にあやかる絶好の機会かもしれないな。
それで事件が早期解決するのならこちらも大助かりというものだ。
もし彼の助言で、万が一今後の捜査を失敗でもした時には、それも上手くいけばこの刑事部長に責任を押し付ける事が出来るかもしれないな・・・)
と事件を失敗した時の責任転嫁の事まで頭に浮かんできた本部長は、明るい声で答えた。
「そこまでお願いされたらしょうがありませんな。
分かりました。
今までの捜査資料を大急ぎで準備しましょう。
ぜひご覧下さい。」
そして本部長は、捜査の責任を負わせる一環として今後の捜査状況の共有をする事も忘れなかった。
「・・・そうですね、まだいつになるか分かりませんが、もし村長の娘の意識が回復したら、それも必ず貴方に連絡させて頂きます。」




