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黒曜石の呪縛  作者: 紗 織
本編
9/129

<第9話> 父のひとり言

 息子の昴は、卒業旅行の計画を父に話し終えて、就寝した。


 しかし父は、リビングのソファーに座ったままだった。



 机の上には、冷やしたビールを注いだグラスが置かれていた。

 いつの間にかグラスの周りには、水滴がしっかりと付いてしまっていた。


 父は、一人で物思いにふけっていた。

 そして晩酌を続けるのも忘れて、先ほど息子が机上に置いた紙に書かれていた『光輝夢村』という文字を思い出していた。





「あの村・・・。


 そうか、あの事件からもう10年が経ったのか。




 確か村は、事件の後に市と統合されて無くなった・・・。


 そして当時の市長が、合併後には、躍起になってあの村の痕跡を消したと聞いている。


 だから昴は村の情報を検索する事が出来なかったのだろう。




 それと言うのも、村で起きたあの残酷な事件の噂の影響で、島への観光客が激減していたのが理由だったはず・・・。


 だから島への渡航者を少しでも取り戻そうと、事件で有名になってしまった不名誉な村の名前が消えて無くなって欲しいと忌み嫌ったかららしい。

 


 昴が見つけてきた画像は、きっと何かの手違いでたまたま画像が残ってしまっていたのだろうな。


 あの島は、海岸線の美しさが有名だったから、以前は県や市のホームページの観光案内にも紹介されていた程だった。

 あちこちで画像が掲載されていたから、もしかしたら痕跡を消しきれていなかったのかもしれない。




 さて、昴が持っている情報は、海岸写真一枚と、読み方も分からない村の名前の漢字表記のみ。


 このような少ない捜査資料の状況で、息子は八年前にその痕跡がすっかり消されてしまった村を発見する事は出来るかな?


 まぁ、名探偵とは当然いかないまでも、さながら少年探偵としてどのような捜査を進めるのか楽しみだ。




 それにしても、久しぶりに名前を見た時に、思わず事件を思い出して渋い顔をしてしまったが、その私の表情にすぐに気が付いていた様子の昴は、なかなか観察眼のある子だったな。

 親バカな評価かもしれないが、今後の刑事としての成長も楽しみだ。」



 こうして、父は息子の卒業旅行がどのようなものになるのかを考えながら、グラスのビールの残りを一気に飲み干した。



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