<第87話> 迷走する捜査 ③
・・・そして話は少し前の検視現場の時間へと戻る。・・・
麗子の遺体が検死をおこなう為に運びだされようとしていた。
麗子の丸まった身体は、うつ伏せの向きで担架に載せるには不安定だったため、横向きに寝かせた姿勢で運ばれる事になった。
そして麗子の遺体が乗せられた担架を動かしてすぐに事件は起きた。
運び出す振動で麗子の手元から黒曜石が床に落下したのである。
「あっ!
すっ、すみませんでした。」
担架の後ろを持っていた検視官が慌てて思わず声をだした。
「このドジ野郎!!
お前は何をやっているんだ!
落ちた拍子に石がさらに割れでもしたらどうするつもりだったんだ!」
近くで運び出される様子を見ていた刑事がすぐに怒鳴り声を上げた。
幸いにも石は、床に落ちて少し転がっただけだった。
しかし徹夜で現場検証をして、ピリピリとしていた刑事の怒りはすぐには収まらなかった。
「担架から手が飛び出ていたら下には何も無いんだから、持っている物を落とすのは当たり前だろ。
お前さんたちは、遺体を担架に載せて布で目隠しをした位で、そんな簡単な事も忘れて、石を下に落としちまうのか。
危うく証拠が隠滅されちまうところだったな。
もしも落ちた拍子に粉々になっていたら、石に付着した大切な指紋が取れなくなっちまっただろうからな・・・」
刑事は、なおもブチブチと小声で何か文句を言い続けていた。
「本当にすみませんでした。」
検視官はそれを遮るように大きな声で謝りながら、慎重に落ちた石をビニール袋の中に入れていた。
「おい!気を付けろよ。
その石は、間違っても他の石ころと一緒にならないようずっと別で持って行くんだぞ。
そしていの一番に鑑識に回すんだぞ。
いいか、分かったな。」
刑事は、同じように大声で指示を出した。
(他の石ころ・・・。
ああ、この部屋に散乱している黒曜石の他の破片の事を言っているんだな。
血液が付着している石と、それ以外の石を大別して回収しているけれど、まさか全部調べさせるつもりなのか!?
あの数全てを鑑識で調べるにはかなりの時間がかかりそうだよな・・・。
はぁ、これから長い戦いになりそうだよ・・・。)
検視官は思わずため息をついた。
麗子の遺体は、このようにして運び出されていった。




