<第79話> 凶器は・・・
「今からお話するのは、古閑 麗子さんが殺害された事件に関する詳細な話ではありません。
黒部が殺された時の凶器についての話です。」
「あの男についての話だと言うのか!
君は、一体何を考えているんだ。
そんな話を聞くのは、非常に不愉快だな。
君は、大切な妻の事を殺害した男の話を、今から始めるつもりなのか。」
村長は、睨みつけるような鋭い眼光を青野に向けながら言った。
しかしそんな状況でも村長の声の大きさは、曜子の体調を心配して、極力普通に抑えられていた。
「いいえ、これは黒部についての話ではありません。
彼が殺された凶器についての話です。」
「同じ事だよ。
そんな話はどうか止めてくれないかな。」
村長は、不快な表情を前面に出して言った。
しかし青野は一歩も引かずに答えた。
「村長さん、大変申し訳ありませんが、この話を止める訳にはいきません。
これは本当に、とても大切な話なのです。」
「いいや、そんな話をわざわざ話してもらわなくても大丈夫だよ。
凶器は、黒曜石の破片だよ。
当時、刑事さんがそう言って来たのを私はちゃんと覚えているよ。
そう、妻が握っていた血の付いた黒曜石が凶器なんだ。」
「えっ!?
お母さんが握っていた・・・・・」
村長の話を聞いた曜子は、震える小さな声でそう呟いた。
「曜子、大丈夫かい?
無理をしないでいいからね。
顔色が真っ青だよ。
体調が心配だ。
事件の事なんて、無理して考えようとしなくていいんだよ。
青野さん、もう大丈夫だ。
どうやら君の話は、わざわざ伝えてもらうような話では無かった様だ。」
村長は、いまや話を直ぐにでも終わらせようと必死になっていた。
「いいえ、村長さん。全くその逆です。
やはり村長さんには、説明されていなかったようです。
今村長さんから話を聞いて、僕には、はっきりと分かりました。
いいですか、村長さん。
凶器になった黒曜石の破片は、部屋の隅の方に落ちていた黒曜石の破片です。
奥様が握りしめていた破片ではありません。」
「えっ!?
『部屋の隅の方に落ちていた』だって。
青野さん、今の話は本当なのか!?」
この話を聞いた村長は、明らかに動揺していた。
「そうです。
もともと黒曜石が飾られていた床の間の近くに落ちていた破片の1つに、妻の麗子さんの指紋、そして黒部の皮膚片、血液が付着していた物がありました。
そして皮膚片が付着していた部分は、鋭利な形状をしていましたし、何より黒部の傷口の皮膚片と一致する事も特定されています。
ですからこれが凶器だったと断定する事が出来たんです。
この凶器の話は、当時の捜査報告書にも記載されていますので、間違いありません。」
青野は、正確にゆっくりと答えた。




