<第75話> 救いの女神
「お父さん、どうしたの?
玄関先でそんな大きな声を出したりして!」
青野と村長、二人の重苦しい雰囲気が漂う玄関で、突然響き渡ったのは、曜子の明るく優しい、そして大きな声だった。
曜子は、自分の部屋の前の廊下から二人に話し掛け、今は少し小走り気味に玄関の方へと向かって来ていた。
青野と村長が彼女の声に驚き、その場で佇んでいるうちに、曜子は二人の間を割って入るようにやって来た。
「曜子、お前は部屋に戻りなさい。
どうしたんだい、お前があんな大きな声を出すなんて。
お父さん、本当に驚いたぞ。」
村長は、いつもの声の大きさに戻って娘に話しかけていた。
「あらっ、大きな声を出していたのは、お父さんの方じゃない?
だから私、そんなお父さんの声にかき消され無いように、精一杯頑張って大きな声を出して話し掛けていましたのよ。
お父さんまでちゃんと声が届いてくれて、良かったわ。」
曜子は、笑顔で父に話しかけていた。
「私、お父さんがそんな大きな声を出しているのを初めて見ましたわ。
お父さんも、そんな声を出す事があるのね。」
「ああ、そうだね。
驚かせてしまって、すまなかったね。」
村長は、自分が思わず怒声のような声を上げていた事を娘に知られて、今は恥ずかしく思っていた。
「部屋の中までお父さんの声が聞こえてきたの。
こんな事は滅多にないことだから、『何があったのかしら?』と驚いて様子を伺っていたの。
そうしたら青野さんの声もたまに聞こえてくるし・・・。
先日はあんなに楽しそうに話していた二人だというのに、『これは、一大事ですわ』と思って慌ててこちらに来てみましたのよ。
一体何があったのですか?」
曜子は、少し心配そうな顔をして、父を覗き込むように話していた。
「それは心配を掛けてすまなかったね。
でも、もう大丈夫なんだ。
話は終わった所なんだよ、曜子。
青野さんは、ちょうど帰る所なんだ。」
村長は、静かに答えた。
「青野さんは、帰る所なんですか?」
曜子は、その澄み切った視線をふっと青野の方へと向けた。
「そうなのですか、青野さん?」
彼女は、青野へと同じ質問をした。
「いいえ。
僕は、まだ帰れません。」
(今しかない!
曜子さんが玄関先までわざわざ出て来てくれたこの機会を逃してしまったら、もう全てがおしまいだ。)
青野は、心を決めた。
「村長さん、曜子さん、お願いします。
どうか僕に、お母さんが殺されてしまった事件の話をさせて下さい。」
青野は、二人に懇願するように言った。




