<第71話> 青野、間違いを犯す
「ところで、村長さん。
今日は、娘の曜子さんにも最初から同席して頂きたいと思っているのですが、よろしいでしょうか?」
青野は、玄関先でまだ家に上がったばかりの村長に声を掛けた。
村長は、青野の言葉に敏感に反応し、驚くような表情を浮かべながら振り返った。
「青野さん。
もしかして今日訪ねて来た目的は、娘の曜子だったのですか?」
(しまった!そうだった。
僕は先日、娘さんと会った話題を出した時に村長の反応を1回見たじゃないか・・・。それなのにまた同じような失敗をしている。
本当にうっかりしていた。)
青野は、今の娘さんの誘い方を心から後悔していた。
明らかに村長は、青野に対して警戒心をあらわにした表情を浮かべていた。
これは青野の間違いだった。
この場面は、以前春子から聞いていた息子の健太の話をちゃんと参考にしなければいけない場面だったのだ。
春子の息子が同行して、曜子に会いに来た時の村長の反応を聞いていたのに、どうしてこんな誘い方をしてしまったのだろう。
事前に村長の反応がこうなることを予想して、もっと他の誘い方をしなければいけなかった場面だったのだ。
時、すでに遅し・・・。
玄関に上がった村長は、いまや立ち塞がる壁のように青野の正面に立ち、青野に家に上がるよう促す声掛けもしてくれなかった。
彼は、その場でただ青野をジッと見つめ、様子を伺っていた。
「そんな違います、村長さん。
今回僕がここに来たのは、曜子さんに会う事が目的ではありません。
確かに、お嬢さんはとても素敵な方です。
でも違うんです。」
青野は、慌てて答えた。
「青野さん。
そんなに急に慌てて『違う』と言い張るのは、かえって怪しく思われるものだよ。」
村長が静かに答えた。
「いいえ、本当に違うんです。
村長さん、聞いて下さい。
今日僕がここに来たのは、『僕の父の代理』なんです。
僕は、『父からの言葉』を伝える為に来たんです。」
青野は、村長の目を真っ直ぐに見つめながら真剣に言った。
「君のお父さんの言葉だって?」
「そうです。
僕の父は、以前村長さんに会っているんです。
奥様の事件が起きた時、奥様の事件の捜査協力をしたのが僕の父なんです。」
「君のお父さんは、事件の時に話を聞いてくれたあの青野さんだと言うのかい。
これは、本当に何という偶然なんだ。
確かに先日君が訪ねて来た時に、4月からお巡りさんになると言っていたし、東京から来たとも話してくれたじゃないか。
だから同じ苗字の刑事だった君のお父さんの事が頭に思い浮かんだんだよ。
だが君が、あの青野さんの息子さんだったなんて、本当に驚いたよ。」
村長の表情に明らかな変化が見えた。
彼の険しい表情が、少しだけ穏やかな表情へと変わっていったのだ。
(お父さんは、やっぱり凄い人だ・・・。
お父さんの話が出ただけで、村長さんの僕に対する警戒心がこんなにも和らいできてしまうんだから。
この村長さんの反応を見れば分かる。
お父さんはあの事件で捜査協力をして、村長さんから確かな信頼を得た人なんだ。)
青野は、改めて父の偉大さを実感していた。




