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黒曜石の呪縛  作者: 紗 織
本編 3
64/129

<第64話> 父の危惧

「父さんは、僕が光輝夢村を発見出来ない方が良かったと思っていたの。


 それは、一体どうして?」


 僕は、父の意外な言葉に驚いて答えた。




「そうだな。


 すまなかった。


 確かにさっきのような言い方では、お前に誤解を与えてしまうな。



 あれは、昴が村を見つけられなければ良いと思ったからではないんだ。




 私は、島に関わる昔の話をお前の耳に入れたくないとずっと思っていたんだよ。


 だから私は、ついいつもと同じ行動を取ってしまっただけなんだよ。」


 父は、青野の問いに答えた。



「島に関わる昔の話って、きっと村長さんの奥様の殺人事件の事だよね。


 この事件、僕には知られたくなかったって事なの?」



「・・・そうだな。



 まぁ正確には、事件が起きた当時のお前には、絶対に知られたくなかった話だったな。」


 父は、昔を思い出すように少し遠い目をしながら言った。




「あの事件が起きた時、正直私は、本当に怖い事件だと思ったんだ。


 自分の家の状況に類似した家で起きた事件だと考えてしまったんだよ。



 仕事で家を留守にしがちな夫。


 そして妻と子供は、そんな父親の帰宅を待って毎日2人で生活をしているという状況がね。



 そして私は当時、『この事件は、もしかしたら自分の家族の身にも起きてしまう可能性があるのではないか』と怖くなったんだ。


 だからこんな事件の存在を、お前には知られたくなかったんだ。




 いや私の場合は、彼のように単に留守がちという要因だけでは無いとさえ思ったよ。


 なぜなら私は、()()()()()()()()()()()だからな。」



 「『人に恨まれる存在』だなんて、父さんのような人がどうして恨まれるような事があるなんて思っているんですか?」


 青野は父の唐突な言葉に驚いて聞き返した。



 「ああ、もちろんだよ。


  だって私は、今まで事件解決の為に、数多くの容疑者を逮捕してきている人間なんだぞ。


  容疑者を捕える事で、事件は解決する。


  だがその容疑者の周りの人々は、そこから生活が一変してしまうんだぞ。



  以前、暴力団の組長を逮捕した事があった。


  その暴力団事務所で彼を逮捕した時、


  『必ずお前にはこの報復を与えてやるよ。』


  と周りにいた部下達から言われたよ。



  そして、こんな事件もあった。


  交通事故を起こしてしまった男性がいた。


  人身事故で、事故に遭った被害者は命を落としてしまった。



  そしてこの容疑者には、家族がいた。


  有名私立に在籍していた息子は、その事件の報道で自分の父が事故を起こした事を学校で知られてしまい、今まで通り普通に学校に通う事が出来なくなってしまった。結局彼は、自分を知らない・・・、いや事件を起こした父の存在が知られていない学校へと転校をしていったんだ。


  父が突然家から居なくなり、そして学校も変わってしまったんだ。


  その子の生活は、まさに激変したと思う。



  今の2つの話の例で分かるか、昴。


  私は、今までこうした様々な事件に関わった時、思ったんだよ。



  『容疑者の逮捕をするという事は、事件の解決にはなるが、容疑者や事件の周りの人達をある意味不幸にしてしまう事もあるのかもしれない・・・。』


  とね。



  そしてこの考えが頭の中に常に存在するようになって、それからかな・・・。


  『私が今の仕事を続けているという事は、どこかで誰かの恨みを買ってしまっている可能性が否定できない。』


  とも考えるようになったんだ。



  法の下の正義。


  これは、事件の解決における正義なんだよ。必ずしも周りの全ての人間にとっての正義ではないんだ。


  本当に難しい仕事なんだと思うよ。」


  父はしみじみと語った。




 「そんな考え方、おかしいよ。


  だって父さんは、何も悪い事をしていないじゃないか。」


  青野は、心から父の考えに反対の意を伝えた。



 「昴、ありがとう。


  そう、自分は正しい事をしている。


  確かにそう信じて仕事をしているよ。



  でも事件はずっと発生し続けているんだよ、・・・残念な事だが、今まで無くなった事がない。


  という事は『常にこの世の中では、何処かで、誰かが事件を起してしまう程の動機となる程の恨みを発生させている』という事なんだよ。



  その恨みの原因が何処にあるのかを考えた時、



  『自分は、普通に生活を送っている人よりも恨みを買いやすい存在かもしれない・・・、


   そして、その事で自分の大切な家族にまで危害が及ぶかもしれない・・・。』



  と心配してしまうのは、守りたい大切な者がいるからこそ持ってしまう、当然の不安なんだよ。




  説明が随分長くなってしまったね。


  だから私は、あの島で起きた事件について、自分の家族にも同じような事件が起きる事を心底恐れたんだよ。」



 父は息子に、今度こそ誤解を与えないようにと丁寧に話した。



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