<第62話> 帰 宅
青野は卒業旅行から帰宅した。
青野は、旅行の話を母親に聞かれると、『うん、楽しかったよ。』と簡単に答えると、足早に自分の部屋へと行ってしまった。
青野は、憂鬱になっていた。
古閑一家の事がずっと気がかりだったのだ。
自分の静かな部屋でゆっくりと考える時間が出来ると、曜子の事が次々と思い浮かんで来ていた。
初めて出会った時の彼女は、ちょっとだけ障子から笑顔を覗かせていた。
次に応接室に入って来た時の、緊張した面持ちの彼女。
やがて打ち解けて話が出来るようになると、また笑顔が戻ってきていた。
そして父親を思い、浮かべた涙・・・。
青野と曜子が一緒にいた時間は、旅行中のほんの短い時間だったと言える。
でも頭の中は、彼女の存在が旅行の全てであったかのようにドンと中心に存在していた。
夕食を終えると、青野はまた部屋へと足早に戻っていった。
深夜に帰宅した父親は、息子の様子を母親から聞き、青野の部屋へと様子を伺いに訪ねて来た。
「昴、おかえり。
どうした?
久しぶりの帰宅なのに、玄関まで出迎えにも出て来なかったな。
一週間ぶりの元気な顔を父親に見せてはくれないのか?」
父は、部屋の外から青野に明るい声で話しかけていた。
青野は、父の声の聞える扉の方に顔を向けていた。
しかし、その明るい呼びかけに答える元気を今の自分が持っていない事で、返事をするのに躊躇があった。
「おかえり、父さん。
玄関まで行かなくて、ごめん。
・・・ちょっと疲れていたんだ。」
青野は、声を絞り出す様に答えていた。
その息子の声の様子から、父は、母の言う通り我が子に元気が無いことを実感した。
「そうか、分かったぞ。
やはり島が見つからなかったんだな。
まぁ、発見したという報告も無かったし、私の方は、もう普通に旅行を楽しんでいるとばかり思っていたのだが・・・、
まさかそんなに発見できなかった事を落ち込んでしまっているとは思わなかったよ。
でも大丈夫だぞ、昴。
父さんは、最初に言っただろう。
島が見つからなかったとしても、探しながら旅行を楽しく過ごす事が出来れば、それでいいと。
そもそも場所の分からない島を発見出来る事の方が奇跡だったんだからな。」
父は、返事のない息子を励まそうと、明るく話し掛け続けていた。
「違うよ、父さん。
僕、島までちゃんと辿り着けたよ。
ごめん、そう言えば、そうだったね。
島を発見した連絡をする事をすっかり忘れていたよ。」
青野は、父に『島を見つけた時は、連絡をするように』と言われていた事を、今まですっかり忘れてしまっていた。
「『ちゃんと辿り着いた』だって!
昴、それは、本当の話か。
それなら、その話をもっとちゃんと聞きたいな。
今から部屋に入ってもいいかな。」
青野の答えを聞くや、父は少し慌てた様子で返事をしてきた。




