<第60話> 曜子の涙
「ちょっといいかな。
ふむ。
曜子が『私も一緒に、その青野さんという方と話をしてみたい』と言うから応接室に来てもらったんだが・・・、
二人とも楽しそうで何よりだよ。」
二人の話す様子を見ていた村長は、ここで二人の会話が少し止まったタイミングで加わってきた。
「そうそう、青野さん。
私から一つお願い事をしてもいいかな?」
村長は、少し改まった態度で青野に言った。
「曜子は、私が先程笑いながら聞いていた話を、出来れば君本人から聞いてみたいらしいんだよ。
二度も同じ事を話してもらうのは恐縮なのだが、もしよければもう一度卒業旅行の話をしてもらいたいんだが、どうかね?」
「もちろん、喜んで話しますよ。
とは言っても、僕の記憶力の問題もあるので、多少は先程とは違ってしまうかもしれませんけれどね。」
青野は、村長の質問に少しおどけた表情をしながら快諾した。
そして『自分はロボットではないので、やはり正確に再現は出来ないみたいですね・・・』と話し始めながら、もう一度楽しそうに話をした。
「青野さん、ありがとうございます。
卒業旅行のお話、私も直接青野さんから聞くことが出来て本当に嬉しかったです。」
曜子は、楽しそうに顔をほころばせながら言った。
「青野さんには、もしかしたらおかしな事と思われてしまうかもしれませんが、父が家であんなに楽しそうに大きな声で笑うのを聞いたのは、本当に久しぶりの事だったんですよ。
・・・だから父から青野さんの話を聞いて、どうしても私も聞いてみたかったんです・・・。
こんな我儘を言って、二度手間をかけさせてしまって、本当にごめんなさい。
・・・私ね、嬉しかったの。
だって・・・、『お家の中が明るくなった』って思えたから。
青野さん・・・、今日は、訪ねてきて下さって本当にありがとうございます。」
曜子は、感極まってしまったのか、青野に少し涙目になりながら礼を伝えてきた。
「曜子!
そ、そんなに久しぶりだったかな?
そう言われてみれば・・・、確かに大きな声で笑う事などめっきり無くなっていたかもしれないな。
春子さん達と話す時は、そもそも大きな声など出さないしな。
しかしそんな・・・、
こんな事で泣いてしまう程、お前がその事を心配していたとは、全然気が付かなかったよ。
曜子・・・、すまなかったね。」
村長は、曜子が瞳に涙が浮かべた様子を見て、少し慌てながら答えていた。




