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黒曜石の呪縛  作者: 紗 織
本編 2
58/129

<第58話> 曜子 再び

 村長の笑い声が聞こえた少し後、廊下に村長が応接室の方へ戻って来るのが見えた。


 「えっ!」


 青野は、思わず小さな声を漏らした。



 襖のすりガラスから見えた村長の後ろに、もう一人の人影を見つけたのだ。


 (もしかしてあの人影は・・・)


 青野は、自分の胸がドキドキしているのを感じた。





「青野さん、お客人を一人で待たせるような事をしてすまなかったね。」


 村長は、襖を開けた応接室の入り口で、直ぐに青野に声を掛けた。


「そして、これからもう一人加わってもいいかな?」


 村長は、青野の反応を探るような顔をしながら言った。


「もう一人・・・ですか?」


 青野は、そのシルエットから恐らくそうであると予想が付いている人物について、敢えて気が付いていないフリをしながら素っ気なく答えた。



「なんだ、なんだ。


 青野さんも人が悪いな。


 もう誰の事か当然検討が付いているだろうに。



 娘の部屋に行った私が、娘の曜子以外の誰を連れてくると言うんだ。



 まさかここで、食事の準備をしている春子さんを連れて来る訳も無いだろう。


 まぁ、反対する気は無いようなのでよかったよ。」


 村長が青野のとぼけた様子を見て、笑いながら答えた。



「さ、曜子入りなさい。」


村長の後ろから、少し緊張した表情の曜子が静かに入って来た。



「こんにちは、曜子と申します。


 あの・・・先程は、どうも・・・。」


 廊下で会った時の曜子の声は、小さかったがその声音は明るかった。



 だが今の曜子の声は、消え入りそうな程か細い声になっていた。



「すみませんね、青野さん。


 この娘こは大変な人見知りで、困っているんですよ。



 こんな風に初対面の人には、普通に話す事も難しいようでして・・・。」


 曜子の話す様子を見た村長が、補足するように話しかけてきた。


 曜子の後の村長の声は、先程までと同じ大きさのはずだったが、青野にはより大きく明瞭に聞こえた気がしていた。



「だから先ほど、そんな娘から青野さんに話し掛けたと聞いたものですから、驚いてしまいましたが、話を聞いてみたらその理由が何ともお恥ずかしい話なんですがね。



 いや、私にとっては面白かったんですよ。


 まぁ、聞いてください。


 曜子が部屋にいた時に、私の笑い声が急に聞こえて来たんだそうなんです。



 娘から言われて、『そうだった』と思ったのですが、青野さんが客として来ている事は、まだ曜子には伝えていませんでしたからね。



 それでこの娘は、『先ほどの声の大きな人は、直ぐに帰ったはずなのに、父は今一体誰とあんなに楽しそうに話しているのだろう?』と不思議に思ったそうなんですよ。



 それで、わざわざ自分の部屋から出て来て、客間に来ていたようなんです。


 その時に、丁度青野さんがお手洗いに向かう為に、部屋から出て来たそうなんですよ。



 いやぁ一瞬ですが、もしや青野さんに興味でも持ったのかと私も緊張したのですが、そんな事は全然無く、気になったのは『私の声』だったという事なんですよ。


 だから私も、変な誤解をしてしまった事が恥ずかしくなってしまいましてね。


 それで娘と一緒に思わずまた笑ってしまったんですよ。」


 村長は、この娘の答えに安心したようで、本当に楽しそうに話していた。




「あのう・・・、ごめんなさい。


 漁師さんが、さっき来た事は、ちゃんと知っていたのよ・・・。


 玄関先で、あんなに大きな声でお父さんの事を呼んでいらしたから・・・。」



 ここで曜子は、青野の方を一瞬チラリと見た後に、また下の方を向いて、話し始めていた。



(あれ?


 これはもしかして、僕に話してくれようとしているのかな?)


 その視線に気が付いた青野は、今の曜子の仕草を見てそう思った。



「私ね、玄関先から大きな声で呼びかけてくる方がとても苦手なんです。


 そういう方はたいがい約束も無く、突然来る男性ですよね・・・。



 でも、もう玄関先に入ってきてしまっているから、絶対に応対しないといけないじゃないですか・・・、本当に怖いわ。」




 この話を聞いて、直ぐに村長が答えた。


「それは、宅急便の方たちの事を言っているんだね。


 確かに彼らは荷物を届けに突然やって来るね。



 曜子がいつもそんな風に怖がっているから、私や春子さんが対応しているじゃないか。


 だから、そんな風に怖がらなくても大丈夫だろう。



 それに今日の達也君は、『船の回収の前に、鍵を受け取りにこれから伺います』ってちゃんと事前に電話で、私に連絡をくれていたよ。


 私が家にいる時だったし、曜子はまず玄関に出る事が無いからね。


 だから私も、その事を曜子に伝えていなかったんだが、それで怖がらせてしまったんだね。


 

 曜子、すまなかったね。」


 村長が優しく曜子に話しかけた。



「ええ・・・。


 お父さん、大丈夫です。



 漁師さんの声は、会話も良く聞こえていて、すぐに船を貸して下さった方が来ているんだって気が付いたので、そんなに怖くありませんでした。」


 曜子が村長に答えた。


「そうだったね。


 そして達也君の声が聞えなくなって、もう帰ったはずなのに・・・、


 今は誰も家に客はいないはずなのに、私が突然笑い出す声が聞えて来た。


 それは、さぞや驚いた事だろうね・・・。


 すまなかったね。」


 村長が先ほど青野に説明した話をもう一度言った。

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