<第53話> 青野の話
村長の真剣な顔つきを見て、思わず居住まいを正しながら、青野が答えた。
「僕は、卒業旅行先を何処にするか迷っていた時、偶然この島の名前を検索しました。美しい海岸の写真や『光輝夢村』という字にも惹かれて、目的地にしたいと思ったのですが、どうしてもこの村の場所を検索して特定する事が出来ませんでした。
そこで『村自体を探し出す事を目的とした卒業旅行』をする事を決めました。
実を言いますと、この地域を卒業旅行で巡りながら、この村を見つけ出すことは諦めかけていたんです。
ですが僕は、最終的には運よくこの島まで辿り着く事が出来ました。
それは本当に素晴らしい出会いがあったおかげでした。
偶然昼食のお店で知り合った漁師の義夫さん、達也さん、そして夏子さん。更にはその夏子さんからご紹介いただいた姉の春子さんのおかげなんです。
僕は、夏子さんの定食屋さんで食事をして、皆さんと出会えたおかげで、偶然にもこの島の名前を知ることが出来て、そしてここまで船で送ってもらう事も出来たんです。
村長さんがおっしゃった事件は、定食屋さんで聞いたので知っています。
ただ僕は、事件の話を定食屋さんで聞くまで、その存在すら知りませんでした。
ですから僕は、村長さんが危惧されている事件を調べる気はありません。」
「うん、春子さんがさっき話していたから、この島を卒業旅行の目的地にして君が旅をしているのは分かっていたよ。
ただね、君が『偶然この島の名前を検索できた』という部分が納得できないんだ。
こんな事を言うのは何だが、この島の名前が検索出来なくなった頃、私も実際にそれを試しているんだ。
そして島の名前が検索出来なかった時、実在しているこの美しい島が、世界から消されてしまったような消失感や絶望感を味わっているんだよ。
だから君が話してくれた『検索を出来た』という話をどうしても信じる事が出来なかったんだ。
それで考えたのが、君がここへ来た目的だ。
実は、あの事件について調べていて、偶然この島にやって来たと嘘の理由をつけて話しているのではないかと考えたんだよ。
だがこれも、自分の中で納得出来る『考え』ではないんだ。
なぜなら、春子さんが君の事を信頼していたからだよ。
彼女の人を見る目は確かだ。
そして彼女だけではない。
夏子さん達も同様なんだよ。
これは、私自身が確信している事実なんだ。
そんな彼らが、この島の話を君にしていたという事が、私にとっては、そもそもで驚くべき事だった。
もう承知の上だと思うが、この島について話す事は、この地域の人間には大変なリスクを伴っているのだからね。
それなのに、わざわざ君に話している。
それはつまり、彼らが君を本当に信頼しているという何よりの証なんだ。
という事は、そんな君がわざわざ嘘をついてこの島に来るような人だとは考え難いんだよ。
だから私は、もう考えるのを辞める事にしたんだ。
私の『考え』を君に打ち崩してもらおうと、さっきの質問をしたんだ。
突然聞いたりして、すまなかったね。
君の真摯な受け答えを聞いていて、君の話す事に偽りは無いと、私も確信させてもらったよ。」
村長が答えた。
「村長さん、どうもありがとうございます。」
青野は、村長が自分の言葉を信じてくれていると話してくれた事が嬉しくて、まずはお礼を伝えた。
「村長さんが言った通りです。
僕は確かに、島の名前を検索する事は出来ませんでした。
僕が最初に見つけたのは、『島の写真』です。
美しい海岸が映っている写真を発見したのがきっかけなんです。
綺麗な海岸の写真をたくさん検索していて、その中で気に入った1枚の写真が『光輝夢村』だったんです。
画像写真に『光輝夢村』と村の名前が記されていたので、偶然名前を知っただけなんです。
でもその村について調べようとしても僕もやはり何も見つける事は出来ませんでした。
だからこの地方に来たのも山勘に近くて、
ここに来る直前まで、普通に観光をしていたんです。
ですから先ほども言いましたが、自分でも本当に良くこの島まで辿り着けたと思っています。
これも全て春子さん、夏子さん、義夫さん達也さんのおかげなんです。」
その後青野は、村長にここまでの自分の旅行の話をしていた。
その中には、お巡りさんとの出会いや、その時に『光輝夢村』の『夢』の字の草冠が切れた字で登録されていた事が分かった事も含まれていた。
そしてそのおかげで、村の画像が残っていた可能性が高い事も話した。
その話題になった時、村長は大いに笑い、そして自分の疑問が解消された事を喜んでいた。
村長は、青野の卒業旅行の話を聞きながら、本当に楽しそうにしていた。




