<第49話> いざ村長宅へ
「一緒に行こう、青野さん。
申し訳ないけれど、もう迷っている時間が無いんだよ。
いい加減出ないと、夕飯の準備が間に合わなくなってしまうんだ。」
結局、まだ困惑している様子の青野を従えて、春子はいつものように食材を手に村長のお宅へと向かい始めた。
義夫は、旅館で皆の帰宅を待つ事になった。
達也が村長から船の鍵を受け取って旅館に戻って来た時に、誰もいないと驚かない為である。
春子は村長宅への道すがら、青野に言い聞かせるように説得していた。
「青野さん、きっと大丈夫だよ。
いいかい、まず私が最初に村長さんに青野さんの事を紹介するからさ。
青野さんの事は、卒業旅行で東京から島に遊びに来た好青年だって説明をしてあげるよ。
それで村長さんの許可が下りたら、実際に彼と話をしてみればいいじゃないのかい。
大丈夫、きっと上手くいくよ。
だからね、そんなに難しく考えないの。
とりあえず、やってみよう。」
春子は、明るく青野に説明していた。
しかしそんな春子とは対照的に、青野は、未だに不安だった。
そんな自分を言い聞かせるように、
『村長さんは実は気さくな人柄だから、春子さんはこんな風に自分を気楽に同行させてくれるのかもしれない』
と考えようとしてみた。
だがやはりそう思う事は難しかった。
どちらかと言うと、今までの村長さんの話を聞いた印象だととてもそうは思えなかったからだ。
そしてむしろ、今までこうしてトントン拍子に話が進んでいったのは、春子さんや夏子さんのこの人柄のおかげだったのだなぁと実感していた。
だから、村長と話が出来るかどうかについては、春子が考えているよりも、やはりとても慎重な反応になってしまっていた。
そうこうしているうちに、二人は村長の自宅の前に到着した。
そこには、青野が想像していた通りの・・・、いやそれ以上に立派なお屋敷が青野の眼前に広がっていた。
村長宅は、大きな美しい白壁に囲まれていた。
その正面には、木製の門扉がドッシリと構えていた。
門の後ろには、その門よりも少し背が高く美しく剪定された二本の松が植えられているのが見えた。
(『松』は、昔から「家族の健康と繁栄、子孫繁栄」そして「不老長寿、永遠の命の象徴」という縁起物として植えられる樹木だったよな。
やっぱりこういう屋敷に植えられているのを見ると、見事な風格も漂っているものなんだなぁ)
と青野は、その松の姿を見ながら思った。
そして旧家の風格が備わった、大きな純和風の屋敷がその奥に建っていた。
屋敷の様子に見とれている青野の隣では、春子がスタスタとインターホンに向かって歩き出していた。
春子がインターホンで同行者がいる事を伝えると、村長は、
『そうですか。
それでは私が今からそちらまで行くから、そこで待っていて下さい。』
と答えて、インターホンを切った。




