<第47話> 彼は『村長さん』
「村長さんが春子さんにすぐに謝ってきたのですか?
そんな事があったと聞いても、僕にはまだにわかには信じがたいです・・・。
すみません。
今までお話を伺っていて思いました。
僕にとって村長さんは、横柄な人です。
そう思ってしまっている主たる理由は、やはり子供の育て方です。
娘の曜子さんは、退院してからというもの、部屋の中にまるで閉じ込められているかのような状況だという話です。
これは現在も続いている・・・。
つまり娘さんは、いまだに外部との関係を遮断されている生活を強いられているんですよね。
そんな事をしている人が、春子さんにどうしてそんな優しい対応をするのでしょうか?
やっぱり僕には信じられません。」
青野は、春子の話す村長さんの人物像を自分の中で上手く定める事が出来ずに、困惑してきていた。
「う~ん、そうなのかい?
でもそういう風に青野さんに言われてしまってもね・・・。
私は、実際にあった事を話しているだけだからねぇ。
その話を聞いていて、村長さんの事を『横柄な人』だなんて誤解されてしまってもねぇ。
なんだか難しいねぇ。
そうなってくると、これはやっぱり、私の話し方に問題があるってことかね・・・。
確かに私も、もう少し曜子ちゃんは外に出る機会を増やした方が良いとは思っているよ。
それは、青野さんと同じ考えなんだと思う。
でもね、大事な所が青野さんと違うんだよ。
『村長さんは、優しい人』なんだ。
これはね、間違いないんだよ。
だからね、誤解しないで欲しいんだ。
村長さんは、ちょっと度を越して曜子ちゃんの事を守ろうとしている。
それだけなんだよ。
どうか青野さんもそんな風に思ってくれないかな。」
春子は、青野に村長の人物像をどう伝えればいいのかを慎重に言葉を選びながら、ゆっくりと説明してくれていた。
この様子を見た青野は、春子の村長への深い信頼感を感じた。
「う~ん、そうだねぇ・・・。
青野さんに何を話したら分かってもらえるかなぁ?
そうだ。
村長さんが、私を含めた村の皆からいまだに『村長さん』って呼ばれているって話は、どうだい?」
「えっ、どういう事ですか?
『村長さん』って呼ばれている話・・・、ですか?」
突然の春子の提案に、青野は不思議そうな顔をした。
「そうだよ。
だって、本当ならもう村長さんじゃないんだからさ。
さっき話しただろ。
彼は、とっくに村長を辞職しているんだよ。
そもそも随分前に村が市と合併して無くなってしまったんだから、もう村長さんと呼ばれる役職自体が存在すらしていないんだよ。
もちろん村の誰もがその事は知っているんだよ。
だから本当は、村長さんの事は、もう『古閑さん』って呼ぶ方がいいのかもしれない。
でもね、やっぱり彼は私達には『村長さん』なんだよ。
『村一番の偉い方』というその呼び方が彼には一番しっくりとくるんだよ。
どうだい?
それ位、今でも皆から尊敬されている人なんだよ。
そうだねぇ、もしも敢えて悪く考えようとするなら・・・、
『こが』っていう苗字がこの地方には結構いるから、はっきりと彼を特定出来る『村長さん』と呼ぶなんて考える事も出来るかもしれない。
でも本当にそんな理由じゃないんだよ。
やっぱり私達にとっては、彼はいまだに心からそう呼びたいと思える『村長さん』なんだよ。
ずっと村の為に・・・、私達の為に生きているような人なんだよ。」
春子は、とても真面目な顔をしながら話してくれていた。




