<第41話> ショック症状
村長からのナースコールで呼び出され、先生が急いで曜子の病室をたずねた。
村長は、娘の様子がおかしい事をあたふたと伝えた。
先生は、頷きながら落ち着いた様子で村長の話を聞いていた。
村長の話が終わると、先生は、村長に少し離れた椅子に座わる事をすすめた。
そして今からの自分と娘さんとの会話を静かに聞いているように伝えると、曜子の隣に静かに近づいて行った。
先生は、曜子に笑顔でゆっくりと話し掛けた。
村長は、この二人の会話を不安そうに・・・、そして先生に言われた通り静かに聞いていた。
終始穏やかに二人は話していた。
曜子は、先生からの質問に答え、先生がそれを笑顔で頷く。
そんなやりとりをしばらくの間二人は続けていた。
やがて先生が曜子に『随分話したから疲れただろう。少しゆっくり休もうか。』と声を掛けた。
曜子は軽く頷くと、上半身を起こして話していた身体をゆっくりと倒し横になった。
先生から病室を出るように促された村長は、その後先生から、驚きの説明を受けた。
『どうやら娘の曜子さんは、事件当時の記憶全般を喪失している可能性が高い』と告げられたのだ。
恐ろしい事件に遭遇した人物は、まれに記憶を失う事があるという説明だった。
事件当時の記憶が非常に恐怖のあまりに、その記憶がもしも脳に留まっていると、彼女の精神状態が平静さを損なわれてしまうと脳が判断したのだろうと・・・。
つまり身体が彼女の精神を守る為に、自発的に記憶の消去を行った可能性が高いと説明を受ける。
曜子の事件以前の記憶に関しては、どの程度記憶喪失の影響を受けているのかの判断をするのが、今日の診断だけでは判断が難しかった為、今後ゆっくりと経過観察をしながら確認していく事になった。
春子は、ここまでの話を大きな身振りも付けながら青野に話してくれた。
「青野さん、どうだい?
村長さんの話は、驚くような内容だっただろ。
私はね、曜子ちゃんが記憶を無くしてしまわなければいけない程の恐ろしい目に遭ったという話を聞いた時、全身に身震いが起きたし、涙も出たんだよ。」
「病院で意識が戻った時に、曜子さんは事件の記憶をすっかり無くしていたのですか?
確か曜子さんは、事件の時は、まだ10歳でしたよね。
そんな・・・、お母さんを事件で亡くしてしまって、彼女自身もまだ小さかった時に、そんな大変な事になってしまったのですね。」
青野は春子の話を聞き、悲痛な面持ちで答えた。
「そうなんだよ。
青野さん、本当にその通りだと私も思うよ。
だってその後にね、曜子ちゃんの事件以前の記憶はあるって先生から言われたらしいけれどさ・・・、私から見たら曜子ちゃんの様子はなんだか以前とは随分変わっちゃったんだよ。
これも、事件の記憶が無いっていう事件の後遺症なんだと言うのかねぇ?
あのね、曜子ちゃんは会えば元気いっぱい挨拶をしてくれる明るい娘だったんだよ。
でもさ、事件の後は人が変わったように静かな娘になってしまったんだよ。
そもそもで、あんなに元気だった娘が体育の授業にすっかり参加しなくなってさ・・・、ついには学校にもほとんど来ない娘になっちゃったんだからね。」
「そうなのですか?
曜子さんは、そんなに事件の前後で生活が変わってしまったのですか?」
青野が今の春子の話を少々驚きながら聞いていた。
「そうだよ。
なんでもね、病気の影響を心配して、そうしているって話だったよ。
なんて言う病気だったかな・・・?
そうそう。
『ショック症状』って言うんだってさ。
それが起きるとね、曜子ちゃんは気を失ってしまうんだよ。
曜子ちゃんはね、事件の後『ショック症状』が起きるようになってしまったんだよ。
だからさ、それが起きないように毎日大人しく生活する事が必要になったんだってさ。
でもさ・・・、曜子ちゃんは家の健太と同じ年なんだよ。
そんな若い子が、ずっと家に引き籠って生活をしているなんて、なんだか可哀想すぎるよ。」
春子の口調が少し変わってきていた。
今までの同情的な口調とは異なり、曜子が家に引き籠っている話題になってからは、納得がいかないという顔をしながら話してくれていた。




