<第39話> 付き添い
「そんな事があったのですか。
確かに。村長さんは、とても娘さんを大切にしている方なのですね。
それじゃあ、曜子さんの意識が戻った時は、村長さんが付き添っていたという事ですね。」
青野は、春子の話に時々相槌をいれながら聞いていた。
「ああ、もちろんそうだよ。
曜子ちゃんの目が明いた時、村長さんは嬉しくてすぐに話しかけたと聞いたよ。
でもね曜子ちゃんは意識が戻ったけれど、何だか様子がおかしかったらしいよ。
だからね、大慌てで『すぐに病室に来て欲しい!』って先生を呼んだそうだよ。」
春子は、病室で曜子の意識が戻った時の話を思い出すのに、少し視線を上に流して考え込んでいた。
村長は、病室で眠る娘の曜子の隣に座っていた。
彼は、心配しながらずっと娘の寝顔を見つめていた。
入院して診察を終えた娘は、目立つようなケガをしていなかった。
先生からも『大きな外傷も無く、良かったですね。後は、自然に意識が戻るのを待ちましょう。』と言われ、安堵をしていた。
その時は、先生も村長も曜子が直ぐに目を覚ましてくれるものと思っていた。
しかし曜子の意識はなかなか戻らなかった。
1日が終わり、不安が募りながらも更にもう一日が過ぎていこうとしていた。
村長は、その時間の経過を何倍もの長さで痛感していた・・・。
娘の心配はしているものの、何をするでもなく同じ場所でジッと座っているのだ。
それは村長になってからというもの、村長職を身を粉にして働いていた彼にとって、180度違う時間の過ごし方だった。
そしてジッとしていると、あの忌まわしい事件の事が脳裏に思い出されてしまい、彼の心は重たくなってしまっていた。
村長は、それに抗うべく対策を取った。
二日目に、彼は売店で販売されていた本を購入したのだ。
しかしいざ本を読み始めてみると、今度は娘の様子が気になってしまった。
本を読んでいる今この瞬間に『もしかしたら娘の意識が戻っているのではないか?』とどうしても気になってしまうのだ。
そうして彼は、読書をしていてもチラチラと度々視線を娘に移してしまっていた。
結局少しも読書に集中出来ていない自分に気が付いて、彼は本を読むのを辞めた。
ゆっくり娘の曜子の寝顔を眺めている・・・。
こんな風に娘の顔をゆっくりと眺めるという事が出来る時間は、そういえば、しばらくなかったなとしみじみと思う。
曜子の顔は、幼稚だった顔が少しスッとした顔になってきたような気がした。
それは母の麗子に似た、美しい面差しになってきているのだなぁと思う。
そして村長の思いは、そのまま自然に麗子へと繋がっていた。
この可愛らしくなっている娘の成長を、妻の麗子はもう二度と見る事が出来ないのかと思ってしまった。
村長は、また瞳に涙が溢れて来てしまっていた。
(いかん。今娘が目を覚ましたら、こんな自分の情けない顔を見せてしまうじゃないか・・・
しっかりしろ!悲しんでばかりじゃいけない。
娘が・・・、曜子が生きていてくれたじゃないか。)
『父親として、これからは自分が曜子をしっかりと守らなければ!』と強く思う気持ちが、悲しみの涙を拭いて頑張ろうという奮起に繋った。
村長は、グッと涙をぬぐい去った。
どれ位時間が経ったのだろう・・・?
不意に村長が見つめる曜子に変化が起きた!?
曜子の瞼が、ピクっと動いたのだ。
「あっ!」
村長は、思わず小さな声を漏らす。
ドキドキと早鐘のようになる自分の鼓動を聞きながら、ジッとその曜子の動きを見つめ続ける村長。
曜子の瞼がゆっくりと開いていく。
まだ意識が戻って来ていないのか、曜子の表情は、フワッとしていた。
曜子の瞳には、まだ何も映っていないようだった。
「曜子、気が付いたのかい?
曜子、曜子。
お父さんだよ。
すごく怖かっただろう。 でももう大丈夫だよ。
これからは、私がずっとそばにいるからね。」
『曜子が気が付いた!!!』
はやる気持ちを静めながら、村長は自分を必死に穏やかにさせていた。
村長は、静かに目を開けた曜子に合わせて、とても優しく話しかけた。




