<第36話> 青野の心の中
「青野さんもそう思ったかい。
私も事件の時に同じように思ったんだよ。
とは言っても、事件の時に思ったのではないんだけれどね。
今青野さんに話した事件の詳しい話は、村長さんから随分後になってから聞いたから、その時だね。
最初はさ、ニュースとかで随分騒がれていたからそっちの情報ばっかりが先に私の耳に入って来たんだよ。
ひどい話ばっかりだったよ。
犯人と麗子さんの不倫の話とか、生き残った曜子ちゃんが実は犯人だとか・・・、聞いていて気分が悪くなるような嫌な話ばかりだったね。
でも今思うと、それも仕方が無かったのかもしれないね。
事件の時は、じゃあ誰から事件の本当の話が聞けるのかって状況だったんだよ。
実際、警察の人から私も事件の話を聞かれたよ。
けれど私は、犯人を見かけた訳でも、事件に気が付いた訳でも無かったからね。
結局私からは、手掛かりになるような話が何も聞けないと思ったみたいだったよ。
警察からはそんな風に話を聞かれるばかりだったね。
そして反対に私の方から事件を心配して、村長さん達の事を色々聞いた質問もあったんだけれど、それに対しては『調査中なので』ってお茶を濁すばかりで何も教えてくれなかったんだよ。
まぁ、私も事件解決には、何も役に立たなかったからお互い様なんだけれどね。
そんな状況だったから、私も気にはなっていたんだけれどさ・・・。
信じられると思える事件の話は、ずっと誰からも聞くことが出来なかったんだよ。
そもそも唯一事件の現場で生き残っていた曜子ちゃんは、数日間意識が戻らなかったしさ・・・」
春子さんが当時を振り返ってポツリ、ポツリと話してくれていた。
青野は、春子さんが話してくれていた話を聞いていて、警察の当時の対応を聞いた時に心の中で思う事があった。
(そうだったのか。
春子さんには、警察の対応は『お茶を濁すばかり』と思われてしまっていたんだなぁ。
確かに警察官には守秘義務があって、事件の内容を話す事は禁じられているからな・・・。
捜査上聞きたい情報を得る為に、相手が知っていそうな情報を敢えて話して、誘導して更に重要な話を聞き出す方法もあるけれど、事件を何も知らなかった春子さんに対しては、きっと事件の内容を自分から話すなんて事は1つも無かったという事なのだろうなぁ。
でも春子さんのようにとても心配しているような相手には、話せる範囲で寄り添ってもいいのではないのかな?
そういうのは、やはり難しい事なのかな?
でももしも可能な事なら、僕はそういう刑事になりたいな。)
青野は、そんな事を考えながら春子の話に頷き、聞いていた。




