<第35話> 凶器の石
「そうですか。
やっぱり春子さんに心配をさせてしまっていたのですね。
すみませんでした。
そんな・・・。
事件の話は、本当にもう伺わなくても大丈夫です。
すみません・・・。」
青野は、春子に謝った。
しかし春子は、その返答に対して変な顔をしていた。
(ああ、なさけない・・・。
僕の今の返答は、失敗なんだ・・。
もっとちゃんと相手の気持ちを酌んだ返答をしないとダメじゃないか。)
青野は、反省した。
「すみません・・・。
春子さんがせっかく聞いて下さったのに、今の僕の返答は良くなかったですよね。
ちゃんと夏子さんにした質問を話しますね。
夏子さんから事件の凶器が石だったと聞いたんです。
僕は、石が凶器の時は殴るのに使われるものだと思っていたんです。
でもその前に切られたと伺っていたので一体どんな石だったのかなと関心を持ってしまい、聞いてしまったんです。
でも夏子さんは、石の詳細は知らなかったので春子さんに聞いて下さったと言う訳なんです。」
青野は、申し訳なさそうに説明した。
「青野さん、そんなに何回も謝らなくっていいのよ。
全然大丈夫だから。
凶器になった『石』の事が知りたかったのかい?
それは床の間に飾られていた『黒曜石』の事だね。」
春子はあっさりと答えてくれた。
「そうか・・・。
黒曜石だったのですか。
矢じりとか石器に使われた石ですよね。
そんな石が床の間に飾られていたのですか?」
「矢じりとか石器だって?
ううん。そんな小さなちっぽけな感じの石じゃなかったよ。
黒く光った綺麗な石でね、両手で抱えて持つような大きな立派な石だったわよ。
その石はね、ずっと床の間にお布団の台座の上に神々しく飾られていたのよ。
だからね凶器の話を聞いた時は、本当にビックリしたのよ。
でもね、私は別に石が凶器だったから驚いた訳じゃないんだよ。
割れてしまったという事に驚いたんだよ。
だってね、あの石は麗子さんがとても大切にしていた石だったの。
麗子さんのお嫁入りの時に、嫁入り道具として彼女と一緒に村長さんの家に来た石だったのよ。
麗子さんから以前聞いた話なんだけれどね、
なんでも、
『この石が自分の事を守ってくれているんだ』
って言っていたんだよ。
それでさ、実際に麗子さんが亡くなった時に、石も粉々に割れてしまった訳じゃない。
私はあまりそういう神秘的な力の話は信じない方の人間だったんだけれどさ。
正直、話を聞いた時は怖かったんだよ。
あんな恐ろしい事件の後だったし、そういう不思議な力ってもしかしたら本当にあるのかもしれないなって思ったよ。
そうそう、それからね、娘の曜子ちゃんの『曜』の字。
その字もさ、その黒曜石から一文字貰っているんだって。
麗子さんがね、娘にも石の守護が付きますようにって思いで石の漢字を名前に入れようと決めたと話してくれたんだよ。
『麗子さんは、本当に黒曜石を守り神だと思っているんだな』って私はその曜子ちゃんの名前の話を聞いていた時に思ったんだよ。」
春子が1つ1つ思い出すように、ゆっくりと話してくれた。
「そうですか。
床の間に飾られた大きな黒曜石か・・・。
確かに黒曜石ならば、落ちて割れた拍子に破片が鋭利になるので、凶器として利用できますね・・・。
それにしても、麗子さんがそんな大切にしていた石が、事件の凶器になってしまっただなんて、なんとも悲しい事件ですね。」
青野は話を聞いていて、切ない気持ちになってしまった。




