<第34話> 春子の心の雪解け
「少し待って下さい、義夫さん、春子さん。
僕の話を聞いて下さい。
春子さん、ここまで義夫さんについて来ていて、今更何を言うのかと思うかもしれませんが、やはり言わせて下さい。
夏子さんにご紹介いただいたから、ここまで来てはいますが、
僕は、春子さんから無理に事件の話を聞こうとは思っていません。
それは、春子さんにご迷惑を掛けてしまうことを一番心配しているからです。
既に終わってしまっている事件についての話を聞いてしまう事は、再び記憶を鮮明にさせてしまう事に繋がってしまいます。
そうした行為によって、せっかく事件を忘れようとして今は穏やかに生活をしている人達に、迷惑を掛けしてしまう事を何より心配しているんです。
では何故ここまでひょこひょことついて来たのかと思いますよね。
それは、ここが僕の旅の目的地である写真の場所だったからです。
実は僕は、明日旅行の日程が終わります。
もう東京に帰らなくてはいけないんです。
ですからその前に、旅行の目的地であった『光輝夢村』に来ることが出来た唯一のこの機会を逃せないという気持ちが勝ってしまい、義夫さんの船に一緒に乗船して来てしまいました。
この話に嘘はありません。
だから、春子さんにお会いして、その表情を見て思ったんです。
『やはり、もう事件の話は聞かない方がいい』と。」
青野は、春子の目をまっすぐに見つめながら話した。
「それは本当の話なのかい?
夏子からは、『事件について聞きたい事がある人が今から義夫君とそっちに行くね。だからお姉ちゃん、ちゃんと話してあげてね。どうかよろしく。』って頼まれたんだよ。
珍しく私にお願い事をしてきた夏子の頼みだからとむげに断る事は出来なかったけれどさ・・・。
正直あんたの言う通りだったよ。
『えっ、事件についての話を聞きたいだって?』って少しもいい気はしなかったんだよ。
私は当時ね、かなり嫌な思いをしたんだよ。
だからね、事件を餌に面白おかしく記事にしていたような輩と同じ人間が、お人よしの夏子を言いくるめて私の所までやって来るのだろうと嫌な気分になっていたんだよ。
それじゃあ、何かい。
私が事件の話をしなくっても、もうあんたは大丈夫だって事なのかい?」
春子は、探るようにジッと青野の顔を見ながら言った。
「はい、もちろんです。
僕の向学心なんかよりも、皆さんの今の生活を守る事の方が大切ですから。
僕は来年働き始めます。そうしたら僕が担当した事件を解くために、事件の詳しい話を聞かなくてはいけなくなります。
これは、事件を解決する為に必要です。だから事件の事を抜け落ちる事が無いように詳しく聞くと思います。
でも今は違う。
だから、もういいんですよ。
今は、春子さんの気持ちが・・・、今の生活が第一なんです。」
青野は、素直に自分の今の気持ちを答えていた。
「・・・。
な、春子さん。
青野君、いいやつだろ。
本当に若いのに、しっかりしている。
強くて・・・、本当に優しい男だと思わないか?」
義夫が嬉しそうに言った。
「そうだね。
来年からお巡りさんになるのに、本当にふさわしい立派な子なんだね。
将来が楽しみだね。」
春子も微笑みながら答えた。
「こんな青野さんなら、大丈夫だったね。
全く・・・、以前の嫌な思いをさせられた記者と青野さんをきっと同じような人物だと思っていたなんて・・・。
私はどうやら要らない心配をしていたようだね。
どうか許しておくれ。
ふふふ、おかしなもんだね。
変な色眼鏡がなくなると、今度は『真面目な青野さんが、一体事件のどんな話が聞きたかったのか?』って私の方が気になって来たよ。
青野さん、今から夏子が言っていた『あんたが聞きたい話』とやらを聞かせておくれ。
もしもそれが、言いたくないような内容だったら、その時はちゃんと私がそう言うからさ。
まだ話の内容も聞いていなかったのに、『きっと嫌な人だろう・・・。嫌な質問をされるだろう・・・』って勝手に思い込んで、青野さんに最初から失礼な態度を取ったりして、ほんと悪かったね。」
春子が青野に申し訳なさそうに言った。




