<第33話> 怪しげな青野
義夫と青野は、旅館に到着した。
春子は、二人を客人を迎えるように玄関先まで出迎えてくれた。
「義夫さん、久しぶりね。
元気にしている?」
春子が明るい声で言った。
「もちろん元気ですよ。
春子さんも相変わらずお元気そうですね。」
義夫も明るく答えた。
「あら?
夏子から事件の話を聞きたがっている人がいるって言うから、どんな人が来るのかと思っていたら、随分お若い方だったのね。
そうね・・・、健太と同じ位の子かしら?
そんな若い子がまたどうして?
事件の頃にはまだ子供だったような子が、なぜあの事件の事を詳しく聞きたいのかしら?」
義夫と話していた時の明るい雰囲気の春子は、もはや消え去っていた。
春子は、明らかに怪訝な表情を浮かべながら、青野の方を見てそう言った。
青野は、自分への春子の対応をみて緊張した面持ちで話し始めた。
「初めまして。
突然お邪魔してすみませんでした。
あのう・・・、僕は、来年の春から社会人になる青野と申します。
実は、この島の写真をインターネットで偶然見つけて、ぜひこの場所に行きたいとこの辺りを探しながら卒業旅行をしていました。
義夫さんと出会えたおかげで、無事写真の島である『光輝夢村』に到着する事が出来て、とても嬉しく思っています。
とても美しい島ですね。
その・・・」
青野は、今から就職先とその向学心から事件の話を義夫さん達につい詳細にたずねてしまった事を話そうと思っていた矢先だった。
春子は、さらに険しい表情を浮かべながら青野の話を割って話し始めた。
「この島の写真!?
またまた。そんな事がある訳が無いでしょう。
一体どうやってこの島の写真を見つけたって言うんだい?
なんだかうさん臭い話だね。」
春子の声色は、さらに少し低くなった。
(まずい!
どうやら春子さん、明らかに青野君の事を警戒している。)
ここまであからさまな春子の様子をみて、義夫は彼女の異変に気が付き、急に慌て始めた。
そして急いで二人の会話に割って入ってきた。
「おいおい春子さん、そんなに怖い声を出さないでおくれよ。
青野君は、決して怪しい人じゃないぞ。
だからどうか誤解しないでやってくれ。
彼は、これからお巡りさんになる立派な人なんだよ。
俺らも驚いたんだが、写真もな、本当に偶然インターネットで検索出来たんだよ。
本当だぞ。俺らもさっきなっちゃんの店で見せてもらったんだ。
春子さんの言う通りだったよ。
もともと青野君は、事件の存在も知らなかったんだよ。
俺らと色んな話をしているうちに、話が盛り上がって島の話や事件の話を俺らの方からしたんだよ。
でもよ・・・、お巡りさんになるような人が聞いてくる事件の内容は、俺らにはあまり分からなくってな。
聞かれた質問に結局ちゃんと答えられなくなっちまったんだよ。
そんな時にな、なっちゃんの方から春子さんを紹介したんだよ。
『春子さんなら、きっと知っているはずだ』ってな。
そういう訳なんだ。
今回ここに来たのは、決して青野さんが言い出しっぺの話じゃないんだよ。
これはな、俺やなっちゃんが青野君を応援したくって勝手にした事なんだ。」
義夫はきっぱりと言い切った。
「なんだい、なんだい。
この子は、随分二人に気に入られているんだね。」
義夫が必死にかばっている様子を見た春子は、少し驚きながら答えた。
「そうなんだよ。
青野君は、なっちゃんの店で出会ったばかりなんだよ。
でもよ、俺らは初対面だったんだが、話は本当に盛り上がっていたんだ。
あのな、青野君は、旅行先でこの辺りの事を本当に気に入ってくれているんだよ。
それで俺らが頑張って、また昔のように盛り上がった場所にしてくれる事を望んでもくれているんだよ。
やる気を無くしかけていた俺の心にグッとくる、良い言葉をくれたんだよ。
それは、この町を出て行ってしまった若い者にも、俺から今度聞かせてやりたいと思うような希望を抱ける話だったのさ。」
義夫は、青野について・・・、いや青野から言われたこの辺りの将来について熱く語った。
「そうなのかい?
じゃあ、今度帰って来るうちの健太にもぜひその話をしてやっておくれよ。
あの子は、都会に行かないと生活が出来ないって言っている子だからね。
曜子ちゃんにだって、島を出る時のあいさつの時に、『一緒に島を出よう』と誘っていたみたいだよ。
もっとも、曜子ちゃんにはあっさり断られたみたいだけれどね。」
義夫の熱弁が功を奏したのであろう。
いつの間にか、春子はもとの明るい口調に戻っていた。




