<第19話> 驚きの条例
「えっ、ちょっと待って下さい。
『黒バラ村』は通称で、でも本当の島の名前は条例で使用を禁止されているですって。
そんな島の名前の使用を禁止する条例が制定されているのですか?
にわかにはとても信じられないような話ですね。」
僕は、義夫の島についての話に驚いていた。
「いやいや青野さん、驚くのはまだ早いよ・・・。」
「あの、お話中にすみません。
先程から『兄ちゃん』から『青野さん』に僕の呼び方が変わってしまったのですが、今まで通り『兄ちゃん』と呼ぶか、もしくは『青野君』と呼んで下さいませんか。
僕は義夫さん達よりもずっと若いですし、『さん』付けはなんだか他人行儀な気がしてしまいます。」
青野が申し訳なさそうに言った。
「うん?
でも青野さんは警視庁に勤めるって言っていただろう。
そんなに凄い所に勤務する人を『兄ちゃん』や『青野君』なんて気軽に呼べやしないよ。」
「そんな、普通に東京のお巡りさんですよ。
僕もまだ働きはじめた訳では無いのでよく分かりませんが、そんなに凄い所なんかじゃないと思いますよ。」
僕は笑いながら言った。
「確かに『警視庁』って表現よりも『東京のお巡りさん』って聞くと、そうなのかなって思うような気もするかな・・・。
って・・・いやいや。
そもそも俺らはお巡りさんを凄い人だと思っているんだぞ。
いつも町の人達を守ってくれているんだからな。
だけど、本人が気にするって言うならこれからは『青野君』にするよ。
それでいいかい。」
義夫が笑いながら言った。
「はい、ありがとうございます。」
僕も笑顔で答えた。
「おう。
あれ?
俺は何処まで話していたんだ?
そうそう、確か条例の内容について話す所だったな。
この条例では、島の名前を使用するのは、一切禁止されているんだよ。
さらにその島についての話題も、同様に処罰の対象なんだ。
もしも使用していた場合には、発見され次第、使用者は留置所に拘留される。
さらにそれでも反省や改善が見られない場合には、逮捕や罰金にもなるんだぞ。
どうだい、かなり厳しい条例の内容だろ。
だから今だって条例違反で見つからないようにお巡りさんから隠れて話をしている位なんだからな。」
義夫は声を潜めるようにしながら話をしてくれていた。
「えっ!
どうして使用するだけ、いやその島の事を話題にするだけでも処罰を受けてしまうんですか?
そんな、江戸時代の生類憐みの令のような理不尽な条例が存在するのですか?
それは、本当にかなりの驚きです。」
僕は驚きが隠せずにそう答えた。