<第17話> 僕はお巡りさん
「おおっ、そう言えば。
確かにそんな事を言っていたっけなぁ。
俺は忘れっぽいから、何度も言ってくれよ。
そうすればちゃんと思い出して一緒に取りに行ったのに。
いやぁ、取りに行けてなくてすまんかったな。」
義夫が申し訳なさそうに達也に言った。
「いやいや。
俺の方こそ、今言われるまで忘れていたんだよ。
漁が解禁になると毎日海に出ているから、ボートなんて使わないもんな。
もう随分経っているけれど、村長さんの娘さん、ちゃんと元気になっているといいな。」
達也が義夫に優しく答えた。
「兄ちゃん、こっちの方から送ると言い出しておきながら、方法が無くなっちまったよ。
何だかすまなかったな。」
義夫が僕に申し訳なさそうに言ってきた。
「そんな、全然大丈夫ですよ。
行けなくなったのは自分の不注意で、そもそも義夫さんは優しさから言ってきて下さった話じゃないですか。
だからそんな風に謝らないで下さい。」
僕は、素直に答えた。
「ところで、達也さんのボートが停泊している村の名前は『黒バラ島』と言いましたか?
僕、先程始めて聞きました。
珍しい名前ですよね。この辺りの島なのですか?」
僕は、先程の二人の会話の中で聞きなれない上に珍しい島の名前を聞いたので、思わず興味本位で聞いていた。
「おお、そうだな・・・。
まぁ、確かに島はこの近くにあるよ。」
僕は驚いた。
そう言った義夫さんの顔は、とても答えにくい質問をされてしまったという顔をしながら答えていた。
「だけどな、本当にすまん。
話の流れでつい達也が言ってしまったんだが、ちょっと、この島については、色々あってな・・・。
どうしようかな、たっちゃん。」
すっかり困った顔になってしまった義夫が達也に助け船をだして欲しそうに話を振っていた。
「ああっ、そうだな。
まぁ、兄ちゃんに少し位話すのならいいんじゃないか。
兄ちゃんは、旅行者で市の職員やお巡りさんじゃないんだから。」
義夫よりも少し落ち着いている雰囲気の達也は、そう答えていた。
(お巡りさん⁉
一応、春からお巡りさんになるんですけれど・・・。
なんて言ったら、せっかく話してくれそうな雰囲気になりかけている島の話は聞けなくなってしまうのかな。
どうしよう・・・)
僕の方も困って来てしまった。
(いやいや、昴、駄目だ。
何を考えているんだよ。
相手に正直であって欲しいと思うなら、まず絶対に、自分は正直じゃないと駄目じゃないか。)
「義夫さん、すみません。
僕、名前を青野 昴と言います。
先程、4月から社会人になりますとだけお話しましたが、その職種は、警察官なんです。
一応警視庁に勤務する予定なんです。
突然にすみませんでした。
先程『お巡りさん』と達也さんが言っていたので、今ちゃんと言っておかないと、いけないような気がして。」
僕は、真面目な顔で話していた。
義夫と達也の二人が、顔を見合わせて、きょとんとした顔をしていた。
そして少しすると、二人ともその顔をほころばせていた。