<第16話> 義夫の優しさ
「おい何だ、何だ。そんなに落ち込むな。
兄ちゃんは、そんなにO島に行きたかったのか。
じゃあ、せっかくの出会いだ。
俺がこれから船で送ってやろうか?」
義夫が良い考えを思い付いたとばかりに、笑顔で言った。
「おいおい、義夫駄目だよ。
お前もうビールを飲んじまっているじゃないか。
飲酒運転になるぞ。」
達也が慌てて止めに入った。
「おう、そう言やぁそうだった。
すまん、すまん兄ちゃん。
いや、ちょっと待て。
そういやぁ、たっちゃんは飲んでなかったよな。
じゃあ、たっちゃんが俺の代わりにちょいと送ってきてやってくれないか?」
義夫は、達也の方を向くと頷きながら言った。
「義夫、ちょっと待て。
お前が兄ちゃんを送ってやりたい気持ちは、よくわかった。
でもな、O島に連絡船が停まる場所以外で俺らのような大型の船舶が停泊できるような波止場なんかなかっただろう。
連絡船の場所は当然使わせてなんかもらえないし、まさか兄ちゃんを島の近くまで送って行って、それから自力で岸まで泳いで上陸してもらうつもりなのか?
それは無理ってもんだよ。」
達也が言った。
「波止場。
ああ、そういやぁそうだったな。
すまん、すまん。
あっ!
じゃあ、たっちゃんのボートで行ってやればいいじゃないか。」
僕は、この二人のやり取りを聞いていて、自分のミスのせいで、そのうち揉め出してしまうのではないかとすっかり申し訳なくなってきた。
「すみません、いいですよ。
僕の不注意の所為でなってしまった結果なんですから、もう大丈夫ですよ。」
僕は、二人のテーブルの方に歩いて近寄りながら言った。
「いいや、大丈夫。心配するな。
たっちゃんは、小型も一台持っているんだよ。
なぁ、それなら送れるだろう。」
義夫は、したり顔で言った。
「おいおい。
俺のボートは今、黒バラ島に停泊中だろ。
村長さんが貸してくれって言って、自分で島まで乗って帰ったままなんだよ。
あれからまだ取りに行ってないんだ。
お前、忘れちまっているだろう。
二人で行かないと、帰りに別々に船に乗って帰れないから、もう随分前だが、お前に一緒に取りに行ってくれって頼んだじゃないか。」
達也が申し訳なさそうに答えた。