<第15話> 失 態
「そうなんですか。
そんな風に言われてしまうと、やはり寂しいですよね。
でも、僕はそんな風には思わなかったですよ。
旅行をしていて、こんな場所で生まれて生活出来ていたら、良かったかもしれないなと思いながら、ずっと旅行をしていました。
そもそも僕は、日本は、とても素晴らしい国だと思っています。
どの場所だって治安も良くて、生活もしやすい世界の中でもとても魅力に溢れた国だと思うんです。
地方には、その地方なりの魅力があって、それを特色として産業としていく。
そうすることが、地域の活性化に繋がっていると僕は思います。
ここの自然は美しいし、食べ物もこんなに美味しい。
ここが田舎で、住みにくい場所だなんて思いませんよ。」
僕は、真剣だった。
ここで、ちゃんと思いを伝えたいと義夫さんに思わず熱く語っていた。
僕の勢いのある主張を聞いた義夫さんが、少し驚いた顔をしていた。
それから、笑顔になった。
「兄ちゃん。
若いのに、しっかりしているな。
そして、優しいな。
そう言えば俺も、この町が好きなんだよ。
そうか、そうだよな。
俺もいい所だって信じていたんだ。
でも若い者が減っていく現状を憂いて、兄ちゃんが言ってくれたこの町の魅力ってやつを、自分が忘れかけちまっていたのかもしれない。
ありがとうよ。なんか兄ちゃんと話していたら元気が出て来たよ。」
義夫の向かいで、達也も嬉しそうに何度も頷きながら僕たちの話を聞いてくれていた。
この会話が一段落して、僕らは各々のテーブルに分かれていた。
でも、僕が丼を食べ終わりそうになった頃、隣でその様子に気が付いた義夫が話しかけて来てくれた。
「兄ちゃん、昼を食べた後は、どこに行く予定なんだ。」
「この後ですか。
少し時間がかかるかも知れませんが、O島まで行って、少年Aについて、その歴史を見て回りたいと思っています。」
僕は、答えた。
「O島か。
歴史ってことは、ミュージアムにも寄るのか?」
「はい、ぜひ行きたいと思っています。」
「そうなのか。
でも今まだここに居たら、ミュージアムに着いた頃にはもう閉館しちまっているんじゃないないのか?」
義夫が言った。
「えっ、そうなんですか。
もうちょっと後に出る連絡船に乗れば、間に合うと思っていたんですけれど。」
「もうちょっと後?
確か次の連絡船が出るのは、今から2時間後の夕方の便じゃなかったか。
なぁ、たっちゃん。」
義夫が達也に聞いた。
「ああ。
昼の連絡船はもう出た頃だから、そう思う。」
達也が答えた。
「えっ、連絡船の出港は、後30分後じゃなかったですか?」
僕は、慌ててスマホで確認をした。
何という失態。
僕は、何をやっていたんだ。
僕がさっき見たのは、夏の運行予定だった。
この時期は運行本数が減っていて、昼の便が1本だけになっていた。
「あぁ、もう明日には帰る予定だから、今日中に観光する事が出来なかったら、明日は新幹線の駅まで移動しなければ行けないから、もうミュージアムに行くのは無理かな。」
僕は、予定変更を余儀なくされてしまった。