<第128話> 千里眼
青野は、父から頼まれていた伝言を二人へ話し始めた。
「村長さん、曜子さん、聞いて下さい。
県警では、事件当時の凶器等を保管しています。
そしてその中に、曜子さんが握りしめていた『黒曜石』も含まれていたそうです。
殆どの破片は、事件が終わり既に処分をされましたが、一度は鑑定資料になった黒曜石でしたので、廃棄を免れていたそうです。
ご遺族の遺留品として申請すれば、返却できるように手配してあるそうですが、どうなさいますか?」
「そういえば、そんな事がありましたね。
事件が終わった時、刑事さんから妻の遺留品は返却して頂きました。
でも現場に多数あった黒曜石の破片については、刑事さんが『こちらで処分しておきます。』と言ってくれましたので、お願いしたんですよ。
当時は、黒曜石は事件を思い出す品でしたので、引き取ろうとは思いませんでしたから・・・。」
「えっ、良かった。
じゃあお父さんが当時頑張ってくれたおかげで、お母さんの『黒曜石』が残ったのね。」
曜子がからかうように小声で呟いた。
その娘の声は、ちゃんと父の耳に届き、父は軽く諫めるような目つきを娘に向けた。
曜子は、首をすくめて小さく笑った。
「青野さん、ありがとう。
もちろんだよ。
『黒曜石』の返却手続き、早速お願いさせてもらうよ。」
村長は、嬉しそうな笑顔を浮かべながら答えた。
曜子も嬉しそうに隣で頷いていた。
「はい。」
青野は快諾した。
青野は、古閑親子の心のわだかまりが解けて、屈託なく会話をする姿を見つめていた。
(今はもう、心優しい二人が思った事を素直に言葉にする事が出来ている。
やはりそういう親子関係って、いいものだなぁ。
ああ、曜子さんの笑顔、なんてまぶしいんだ・・。)
いや・・・、青野は、曜子の輝く笑顔に見とれてしまっていた。
(いやいやいや・・・。
何を見とれているんだ、僕は・・・。)
青野は、慌てて我に返った。
(それにしても、父さんの千里眼には驚きだよ。
出発前に『黒曜石』の返却手続きの話を聞いた時、僕は何を言っているのだろう?と思っていた。
つまり父さんには最初からこの結末が・・・、こうなる事が分かっていたって事なんだよな・・・。
やっぱり父さんには、まだ全然かなわないなぁ・・・。
いや、いつかきっと僕だって、父さんのような刑事になるんだ!)
青野は、自分自身に誓った。