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黒曜石の呪縛  作者: 紗 織
本編 3
127/129

<第127話> 『大好き』の不思議

 話を終えた曜子は、顔じゅうが涙で濡れていた。



 村長は、娘の様子に気が付き、慌てて声をかけた。



「曜子、大丈夫か?


 辛い話をわざわざさせてしまって、すまなかった。」



「大丈夫よ、お父さん。」


 曜子は、明るい声で答えた。




 涙には濡れていたが、曜子の表情はとても澄み切った笑顔を浮かべていた。


「私ね、嬉しいの。」





「嬉しい?」


 村長と青野、二人は驚きの声を同時に発していた。



「ええ、そうよ。


 ありがとう、お父さん。」



「お礼?


 私は、お礼を言われるような事を何かしたのかな?」


 村長は、娘のお礼の理由が全く分からなかった。



「お父さん、そんなに驚いた顔をしないで。


 お父さんは、事件の日に私が『黒曜石をちゃんと手に握りしめていた』って事を、教えてくれたじゃない。



 私ね・・・、

 お母さんに頼まれた石は、無くしてしまったと思っていたの。


 部屋で意識を失った時に落としてしまったんだと思っていたのよ・・・。



 最初の頃は、お母さんが死んでしまったのも、私が石を守れなかったからなんじゃないかって思っていた位だったのよ。



 ずうっと今日まで、私は石を・・・お母さんを守れなかった自分の事を責めて暮らしていたの。




 でも、それは間違いだった。

 私はちゃんと頑張ったんだって知ったの。



 お父さんが私達の所に帰って来てくれるまで、お母さんも私もちゃんとお互いの事を守っていたんだって事が分かったんだよ!



 私は、ちゃあんとお母さんの事を守っていたんだって!



 お父さん、教えてくれて本当にありがとう!」


 曜子は、心からの感謝の言葉を伝えた。



「そうだよ。


 麗子も曜子も、一生懸命頑張ってくれたんだよ。」


 村長も笑顔を浮かべながら涙を流していた。






「ねえ、お父さん。


 お父さんはお母さんがいつも言っていた『大好き』の不思議のお話、知っている?」


 曜子は、母が最期に自分と父に伝えようとしていた『大好き』という言葉を思い出し、父に質問をした。


「いや・・・。」


「うふふっ。


 やっぱりお母さんは、お父さんには照れ臭いから内緒にしていたんだね。


 お母さんらしい。」


 曜子は楽しそうに答えた。



「あのね、本当に大好きな人と出会うと、その人への『大好き』って気持ちはドンドン新しく芽生えてくるんだって。


 その人の笑顔・話す言葉・ちょっとしたしぐさ・・・。


 一緒に生活をしているだけで、その人への『大好き』って気持ちがぐんぐん毎日育つんだって。




 お母さんはね、『お父さんと出会って知ったんだよ』って教えてくれたんだよ。」





 誤解が築き上げていた城壁が、今ガラガラと音を立てて崩れた。



 事件が起きてから初めて、二人は、母の楽しい思い出を話す事が出来るようになっていた。



 村長は、娘の犯罪の記憶が戻らないようにと、二人になってからの生活だけを話題にするように心掛けていた。


 曜子は、自責の念から自分の殻に閉じこもる生活をずっと送っていた。



 二人のギクシャクとした生活は、ようやく終焉を迎えたのだった。


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