<第124話> ついに語られる事件 ⑤
「あ、あ、あ・・・
いやぁ~~~!」
麗子は、絹を裂くような叫び声を発した。
麗子は、床の間に駆け戻ると、必死に散らばった黒曜石のかけらをかき集めようとした。
「何・・・、何てことを・・・・」
「おい、おい・・・
何をやっているんだ!
はぁ~ん、そうか。
あんた、俺を誘っているんだな」
男は、麗子の四つん這いで石を集めている後ろ姿を舐めるように眺めた。
「でもよぉ~・・・。
いきなりバックからは、無いだろう。
ほらっ、あんたは顔が自慢だろ!
こっちを向きな!」
男は、麗子を力尽くで振り向かせると、そのまま仰向けに押し倒し馬乗りになった。
男は、麗子の両肩をしっかりと押さえつけながら言った。
「いいかい、もし逃げようとしたら、その綺麗な顔に醜い傷を作ることになるからね。」
右手に握ったナイフを麗子の身体にグッと押しつけるようにしながら、男は意地悪く言った。
「け、けだものっ!」
麗子は、涙目になりながら言った。
「いいねぇ~、とてもそそられる言葉だよ。
けだものプレイか。
楽しもうっ!」
男は、麗子の胸を左手で強く揉みしだいた。
「いやぁぁぁぁ~。」
麗子は必死に叫んだ。
その声を聞き、男は恍惚とした表情を浮かべた。
そしてニタリっと笑うと、麗子にキスをしようと顔を近づけてきた。
(助けて!
あなたぁ~~~~)
麗子は、右手の下にあった黒曜石を必死で掴むと、男を目掛けて振った。
「ぐっ」
男の喉元を麗子の一撃が切り裂いた。
「ひっ!」
麗子の顔に男の血しぶきが降りかかった。
恐怖で力の抜けた麗子の手元から、黒曜石が静かに転がり落ちた。
男は、切られた喉元を抑え、体をのけぞらせた。
そのすきに麗子は、男の下から抜け出そうとした。
「こ、この女・・・」
這い出そうとしている麗子の後ろ姿に、男は切りかかろうとした。
しかし男は、立ち上がれなかった。
付いていた膝を片方持ち上げた拍子にバランスを崩し、男は前のめりになった。
「ぶんっ!」
ナイフを持った右手が力任せに振り切られた。
ナイフが麗子の背中を切り裂き、男はそのまま前へ倒れ込んだ。
(あつっ・・・!)
麗子は、背中に鋭い痛みを感じた。
麗子は、熱く痛む背中にそっと右手を回した。
「いたっ。」
手が傷口に触れた瞬間、麗子は刺すような痛みを感じて、その手を引いてしまった。
麗子の右手は、真っ赤に染まっていた。