<第122話> そして語られる事件 ③
男は、もう二人のすぐ目の前まで来ていた。
曜子を守るように立ってはいたが、麗子の身体も震え出してしまった。
「あれれ~?
二人とも震えているね・・・。
大変だ。それじゃあ今から先生がすぐに診察をしてあげよう。」
男の腕がゆっくりと麗子の胸元の方へ近づいてきた。
「いやっ。」
麗子は、反射的にその手を振り払おうとした。
しかし麗子のその右手は、男にしっかりと掴まれてしまった。
「やっぱり君が後だな。」
男は大声でそう叫ぶと、乱暴に掴んだ手を引き、麗子を自分の後ろへと投げ飛ばした。
男に投げ出された麗子は、そのまま勢いよく前へ倒れ込んでしまった。
「きゃぁーーーー。」
その様子を見ていた曜子が、怖くなって叫んだ。
「ほらね。大人しく診察を受けないからだよ。
いいかい、君はそのままジッとしているんだよ。」
男は、座り込んで震えている曜子にニタニタと笑いながら近づいてきた。
「止めてぇ!」
麗子は、叫びながら曜子と男の間に自分の身体を滑り込ませ、必死に曜子の盾となった。
「ああん?
やっぱり麗子さんが先に診察を受けたいの?」
「それじゃあ今度は、麗子さんは先生の言う事を何でも大人しく聞いてくれるって事だよね!」
男は脅すような大きな声で麗子にたずねた。
両手を広げその場で盾となってはいるが、ガタガタと震えるだけで、麗子は何も答える事が出来なかった。
「返事はぁっ!?」
男は、イラつきながら再び大声を出した。
「はあぁぁ~、駄目だねぇ。
お母さんは、お返事も出来ない悪い子みたいだよ。
でも先生は優しいから、許してあげるよ。
それじゃあちゃんと麗子さんから診察するね。
さぁ曜子ちゃん、ちょっとあっちで待っていてねっ!」
男は、麗子に隠れるように小さくなっている曜子の腕を掴むと、先程の麗子と同じように乱暴に投げ飛ばした。
子供の曜子は、麗子よりも更に遠くまでつんのめってしまった。