<第117話> 曜子の記憶 ④
「そして次の日の朝、お父さんに話したの。
『お父さん、私石を持っていなかった?
お母さんを守る為の大切な石なの・・・』」
「そうだったね・・・。
あの時は、本当に慌てたよ。
その話を聞いた時、私は驚愕したんだ。
(曜子が凶器の石を探し始めた?
しかも何という恐ろしい部分の記憶が戻ってしまったんだ!)
と思ったからだよ。」
「そうだったのね・・・。
でも、私はあの時のお父さんがとても怖かったわ・・・。
『曜子、お前は石なんて持っていなかったよ。
そう、絶対に持っていなかった。
そもそも怖かった事件時の記憶なんて、思い出そうとしちゃ駄目だろ!
また昨日みたいに、全身の震えが止まらなくなってしまったら、どうするんだい?
そんな事じゃあ、いつまでもお家には帰れないからね。
いいかい・・・。
お父さんの言う事はちゃんと守るんだよ。
怖かった時の話は、もう誰にも話しちゃいけないよ。
誰かに話したりしたら、曜子が大変な事になってしまうんだからね。』
お父さんは、とても真剣な顔つきで話していたわ・・・。
だからね・・・、本当に悲しかったの。
だってお父さんは、私が思い出す話を・・・、
お母さんの話を聞きたくないんだって思っちゃったから・・・。」
曜子は、当時の事を思い出して、目尻にうっすらと涙を浮かべていた。
「曜子、すまなかった・・・。
お父さんのせいで、曜子をそんなに悲しませてしまっていたなんて、気が付かなかったよ。
あの時は、曜子を守ろうとただただ必死になってしまっていたんだ・・・。
恥ずかしい限りだよ・・・。」
村長は、落胆を隠せなかった。
「村長さん、どうか自分を責めないで下さい。」
青野は、村長に優しく話しかけた。
「村長さんは、今日までずっと曜子さんが罪を犯したと思い込んでいた。
だからこそ曜子さんの記憶が、このまま戻って欲しくないと思う気持ちも強かったんです。
その結果、当時の言葉が強くなってしまった・・・。
これは、村長さんの娘を思う優しさから出た行動なのですから・・・。」
「そうよ、お父さん。
私もそう思うわ。
ありがとう、お父さん。」
曜子も笑顔で父に感謝の気持ちを伝えた。
「ありがとう・・・・。
ありがとう、二人とも。」