<第114話> 曜子の記憶 ①
「曜子!」
村長は、慌てて話を止めた。
曜子が涙を流していたのだ
彼女は、瞳いっぱいに涙を浮かべ、村長を見つめていた。
「すまなかった。
やはり事件の話は、聞くに堪えなかったんだね!」
村長は、平謝りに謝っていた。
「違うの・・・。
お父さん、ごめんなさい・・・。
お父さんは、自分が疑われてしまっていたのに私の為に何も言わなかったのね。」
「いいや、違うよ。
私が勝手にしていた事なんだよ。
そんな風に自分を責めないでおくれ。」
「そんな事ない・・・。
あの時、病院で私がお父さんに聞いたからでしょ?」
「それは・・・」
曜子の質問に、村長は言葉が詰まってしまった。
「やっぱり、そうだったのね・・・。
私、あの時は分からなかった・・・。
いいえ、今日お父さんのお話を聞くまでずっと分からなかったわ。
私はただお母さんの話をしたかっただけなのに、何故お父さんがあんなに怒ってしまったのかがずっと分からなかったの。
ありがとう、お父さん。
今は、ちゃんと分かる。
お父さんは、私を守るためにあんなに必死に怒ってくれていたのね・・・。
ごめんなさい。
私、あの時からしばらくは、お父さんがとても怖かった。
事件の時のあの男の怒声と、お父さんの声が重なってしまったから・・・・。」
「えっ!
曜子、今何て言った?
あの男の怒声って、まさか曜子、お前は事件の記憶が!?」
村長は、慌てていた。
事件の記憶を失ったままだと思っていた娘の口から、突然事件に関わる言葉が発せられたからだ。
「ええ、曜子さんの事件の記憶は、もう戻っていると思います。
そうですよね、曜子さん」
青野は、曜子に改めて確認するように質問した。
「はい。」
曜子は、頷きながら答えた。
曜子の答えに青野も頷き返した。
村長は、二人のやりとりを驚きの中で聞いていた。