<第110話> 村長の告白 ④
(犯人!?
まだ家にいたのか!!)
客間の電気は付いていなかった。
村長が部屋の襖を開けた時、廊下から差し込む光の先に妻と娘が倒れ込んでいた姿を見つけて、慌てて駆け寄っていたからだ。
床の間の近くは、薄暗かった。
村長は、座り込んで娘を腕に抱いた姿勢だった。
彼は、そのまま注意深く倒れている男の方を凝視した。
(倒れてはいるが、もしやまだ生きているのか・・・?)
村長は警戒心を一気に強め、娘を守ろうと支える腕に力が入っていた。
その拍子に村長の首が動いた。
すると部屋の奥に差し込む光が当たって、男の右手の近くがキラリと光った。
(刃物!?)
反射的に村長は、近くに落ちていた黒曜石を拾い、右手で強く握りしめていた。
村長は、男から視線を離さなかった。
男は、ピクリとも動かない。
ずっと続く緊張感の中で気が付かないうちに腕に疲れが溜まってきていた。
村長が娘を抱く力は、自然と少しだけ緩まった。
やはり男は動かない・・・。
そして少しだけ冷静になった村長は、右手に握りしめた黒曜石の存在に気が付いた。
(黒曜石・・・。さっきの私の行動は・・・無意識だった・・・)
村長にまた別の心配事で起きて、胸の動機が高まってきていた。
(もしかして・・・・・、
同じだったのか・・・?)
村長の頭の中に、事件の時の恐ろしい想像が浮かび上がってきていた・・・。
(曜子も妻を助けようとして、この石を握りしめていたのか!)
村長の鼓動は、いまや早鐘のように打っていた・・・。
(落ち着け・・・。
曜子は、まだ10歳の娘なんだぞ・・・。
大人の男性を相手に戦ったりするはずがないじゃないか・・・。
いや・・・、でも・・・、
ピンチに追い込まれれば、もしかして・・・。
確かにそう考えると、麗子が曜子を守るように倒れていた理由も説明がつく!
石で攻撃した娘を反撃しようと犯人が向かってきて・・・、
だから娘を守ろうとして麗子は、盾になったのではないのか?
いや、待て・・・。
でもそれならば、なぜあの男は部屋の奥で倒れているんだ?)
村長の頭の中は、いまやすっかり混乱していた。