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黒曜石の呪縛  作者: 紗 織
本編 3
108/129

<第108話> 村長の告白 ②

事件の起きたあの日、帰宅した村長を待っていたのは、いつもの明るい笑顔の妻や娘ではなかった。




ようやく見つけた妻の麗子は、亡くなっていた・・・。



麗子の背中には、誰かに襲われて切られた傷跡が無残にもハッキリと残っていた。



抱き起した麗子の身体は、娘を守る姿勢のままだった。


「そうか・・・。

 必死に曜子を守ってくれていたんだね・・・。」


 村長はその姿勢の妻を抱きしめながら、妻の娘を守りたいと固まった姿に、更に泣き崩れてしまった・・・。



 涙はとめどなく溢れ、腕の中の妻は視界が滲んで消えてしまいそうだった。




 一体どれ位泣いていたのだろう・・・。


 村長の頭の中は、悲しみのあまり空っぽになってしまっていた。

 もう何をすればいいのかも分からなかった。



 しかし空虚になった心には、涙を止める効果があったのだろうか?


 村長の視界が少しずつ周りの景色を映し出し始めた。




 村長の座り込んでしまっていた場所の少し先に、小さくうずくまった姿勢のままの曜子の姿が見えた。



 部屋に入った時からずっと変わらないその姿に村長は、もう落胆を隠せなかった。


「曜子・・・。


 もう君も、ずっとその姿勢のままなんだね・・・。


 そんなに小さくうずくまって・・・。

 どんなに怖かった事だろう・・・。



 ごめんよ。

 そんな所に独りにさせてしまっていたね。

 今すぐ迎えに行くよ。



 麗子、ちょっと待っていてくれるかな?

 今曜子もここに連れて来るからね。」


 村長は、そっと優しく麗子を横たえると、曜子の隣に歩み寄った。



「曜子、ただいま。」

 村長は、曜子の身体を仰向けに抱き起した。




 曜子の身体は、温かかった・・・



「えっ!」


 麗子を抱き起した時とは明らかに違っていた。


「温かい!?


 曜子、曜子、お父さんだよ。」




 父に名前を呼ばれても、曜子は目を覚まさなかった。



 村長は、直ぐに娘の手首の脈を診ようとした。


 曜子の両手は、胸元で祈るような姿勢に丸く握られていた。



 しっかりと何かを包み込むように握りしめられた両手は、村長が離そうとしても簡単には開かなかった。



「うん?曜子は何かを持っているのか?」


 娘の手のひらの中に何かがあるのに気が付いた村長は、固く握られていたその手の指を1本づつゆっくりと開いていった。


 曜子の手元から、血まみれの黒曜石がコロンと静かに落ちてきた。


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