<第103話> プロファイリング
「『なぜ凶器として選ばれたのか?』とは、
どういう意味ですか?
先程村長の証言は全て真実であるという目で読み解いていこうと話していたばかりなのに、なぜそのような否定的な意見を言われるのですか?」
研究員が驚きの声をあげた。
「ああ、確かに。
村長が話してくれた事件当時の現場の状況については、正しいと思って話しているよ。
よく思い出して欲しい。
今、私が気にしている黒曜石については、村長は話題として当時何も触れていなかっただろう。」
「そう言えば、確かに・・・。
現場で夫人のご遺体を移送していた際に黒曜石が落下。
その為後日、村長からその話を聞いたんです。」
「その通り。
私はね、事件当日、村長が意図的に石の話題には触れなかった可能性も考えているんだ。」
「意図的に・・・。
という事は、やはり村長が犯人と刑事部長もお考えなのですね。」
「いや、そうではない。
意図的とは言ったが、村長が殺人を犯したと考えるには、あまりに不自然な点が多い。
だから村長は、黒部殺害には関与していない可能性が高いと私は考えている。」
「えっ。
現在の我々の捜査方針が間違っているとお考えなのですか?」
「君たちの分析した資料を読んで辿りついた考えなんだ。
だからこそ、君達に直接話を聞きにきているんだよ。
まず夫人と黒部の死亡推定時刻は、ほぼ同時刻だったね。」
「そうです。」
「ならば当時の現場の話を思い出して欲しい。
村長が帰宅して、夫人を発見して思わず動かした。
しかし村長が夫人を動かしても、夫人はその姿勢のままだった。
最初に現場に到着した刑事に村長は、そう説明していたね。
という事は、夫人の遺体を村長が動かした際には、もう死後硬直が起きていたんだ。
つまり、夫人や黒部が既に死亡し、死後硬直が始まった後に、村長は帰宅している事になるんだ。」
「ええ、村長の証言が正しければ、確かにそう考える事が出来ます。」
「そうか・・・。
やはり捜査方針とは異なる意見は、聞き入れにくかったようだね。
すまなかった。
じゃあ、改めて聞こう。
君達の捜査方針に沿って考えると・・・、
『まだ二人が生きていた時刻に帰宅した村長が、黒部を殺害。
そして凶器の石を夫人の手に持たせた』
だったね。
それならば、先程聞いた時に君達が顔をしかめながら答えた話、
『死亡した夫人を娘に覆いかぶせるように置いた』
これはやはり村長が行った行為になるね。
・・・確かに死後硬直は、遺体の状況によって変化するものだ。
同じ部屋で亡くなっていたとはいえ、冷たい床で倒れていた黒部に対して、夫人は生きていた娘さんに覆いかぶせられていた。
だからこそ死後硬直の進行も遅く、夫人の遺体の手元から持たせられていた黒曜石が落下した。
なるほど、この話は、一見筋が通っているように聞こえるね。
ふむ・・・、この殺害方法を事前に計画していたという事は、村長はかなり残忍な人柄という事になるね。」
「え、ええ・・・。
そういう事になりますね。」
「どうしたんだい?
随分困惑した表情を浮かべているね。
君達の捜査方針に従って考えた村長のプロファイリングだったが、お気に召さなかったかな?」
青野刑事部長は、研究員達に対して敢えて意地の悪い聞き方をしていた。