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黒曜石の呪縛  作者: 紗 織
本編 3
101/129

<第101話> 誤った先入観

「『疑わしきは罰せず』


 冤罪を防ぐための考え方が、時として我々にはこの上ない(かせ)として働いてしまうなんて・・・。」

 研究員が悲しそうに呟いた。



「そうだな・・・。



 汚職捜査は、私も深く考えさせられる問題だと思っているよ。



 だが、今回の事件は違う。


 これは殺人事件だ。

 うやむやにされる事など決してない。


 我々は襟を正して、確実に容疑者を特定しなければならない。」

 青野刑事部長は力強く言い切った。



「おっしゃる通りです。」

 研究員達は、気合を入れ直した。



「そうだ。


 そしてその為に、先入観を捨てる事が何よりも大切なんだ。」



「先入観ですか?」

 研究員は、不思議そうに聞き返していた。


「ああ、そうだ。


 色眼鏡を掛けて鑑定しても、ちゃんとした結果は得られないだろう。」

 青野刑事部長は断言した。


「まだ気が付いていないのかい?

 『政治家』という色眼鏡だよ。


 捜査資料を読んでいて気が付いたんだ。

 聞き込みの結果も、村長宅は夫婦円満な幸せな家族としてご近所に認識されていたね。


 どちらかが浮気をしていたという事実確認は、現段階で取れたりしているのかな?」


「いいえ、()()です。」


「そうか・・・()()か。」


「待ってください!


 犯行動機は、浮気による怨恨とは限らないじゃないですか。

 もっと衝動的な動機である可能性も否定はできませんよ。」



「うん、その通りだね。

 動機は、色々な可能性が存在するからね。



 ただね、証言を全て否定的に捉えている現在の捜査方針が、むしろ事実認識を難しくしている気がするんだよ。




 落ち着いて()()考えてみて欲しい。


 私が今から話す状況は、果たして現実的なものかどうかの判断を教えてくれないか。



 事件の当日。


 妻が殺害され、娘は緊急搬送された直後の人物が、用意周到に作り上げた嘘の証言を準備した上で、我々の質問に答えた。


 どうだい?君達はこう聞かれたらどう思ったかな?」



「・・・そうですね・・・。


 確かに偶発的に起きた事件では、そのような証言は難しいと思います。



 ですが妻も娘も殺される予定だった人物が、もともとアリバイ工作として準備していた嘘の証言を我々に答えた・・・と考えれば現実的だと思います。」



「そうか、なるほど。


 では、母が娘の身を守る様に娘に覆いかぶさるような姿勢で亡くなっていたというのは、もともと準備をしていた、犯人によって作り上げられた姿勢なのだね。


 村長は、気を失っている自分の娘の上に、亡くなった母親の遺体を覆いかぶせるように置いてそのまま死後硬直をさせたと・・・」



「そ、それは、ちょっと無理な・・・」



「その通りだよ。

 わざわざ遺体を不自然な姿勢に整えたと考えるのは、聞いていても変な話だと当然思うよね。



 だからこそ、次のように考えるんだ。


 『もしも嘘の証言を準備していたとしても、全てを嘘で塗り固める事は難しい。


 だから、証言の中に明らかな矛盾が存在する部分を探し出していくのが正しい捜査手順なんだ』と。



 だからこそ、村長の証言を全て真実であるとして、最初に読み解いていこうと言ったんだよ。

 村長が政治家だから、証言は正しくないと思い込んでしまっていては、駄目なんだよ。」



 青野刑事部長は、話を進めながら具体的な例を加える事によって、研究員達の政治家に対する先入観が古閑村長という人物の分析に悪影響を与えていた事を自然に訂正していった。


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