<第100話> 大物政治家 ③
「そうか、過去にそんな経験があったんだね。
因みに、その追いかけていた事件と言うのは、贈収賄がらみのいわゆる『汚職』だったのかな?」
「その通りです。
もしかして当時の事件をご存知なのですか?」
研究員達が驚いて、聞き返してきた。
「いや、その事件は立件された案件でもないから、恐らく知らないと思う。
汚職だと思ったのは、君達から当時の本部長の対応を聞いたからだよ。」
「本部長の対応ですか?」
「ああ、そうだ。
汚職は、非常に立件が難しい案件だからな。
『帳簿に記載されていなかった・・・』、『秘書が勝手に・・・』と何億もの現金が動いている事件だというのに、こんな言い訳を平然と述べる政治家の何と多いことか。
そして、過去には苦労して実際に政治家を立件出来そうな所まで証拠をかき集めたのに『私がやりました』と秘書が書置きを残して突然自殺をしたという結末を迎えてしまった事件すらあった・・・。」
「言われてみれば、確かに・・・。
メディアに報道されて、我々も逮捕直前かと思っていたのに、やはり立件されずに、いつの間にかその事件が報道すらなくなってしまっているのを何度も見て来ています・・・。
そうか・・・。
自分達の事件の時は、身近な案件だったが故に、もう絶対に立件出来ると思い込んでしまって、政治家の汚職の立件の難しさを忘れてしまっていたのかもしれません・・・。」
研究員達は、みるみる花が萎れてしまったかのように、元気が無くなってしまった。
「すまない。
決して君たちのやる気を削ぐような話をするつもりじゃなかったんだよ。
ただね、政治家の身近にいる弁護士は、法律のエキスパートなんだよ。
そうだ。君達は、ある事件の裁判官のこんな言葉を聞いた事はあるかい?
『たとえどんなにグレーの紙を重ね合わせても、それは決して黒にはならない。』
この言葉は、たとえ幾つ容疑者が怪しいと思われる証拠を集めたとしても、絶対にその容疑者がやったという証拠にはならないという事を説明される為に使われた言葉だ。
この言葉がまさに政治家の汚職にも適用されている法律の怖さなんだと思う。
どんなにこの政治家が怪しいと思われる証拠をかき集めた所で、その政治家本人が確実にやったという証拠が出て来なければ、その政治家本人を実刑にする事は出来ないんだ。
そして、その事を弁護士から教えられて熟知している政治家は、確実に自分が捕まるという証拠は、決して残さない・・・。
もし有ったとしたら・・・捕まる前には確実に消してしまうんだ。
本当に、悔しい話だと思う・・・。」