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黒曜石の呪縛  作者: 紗 織
本編
10/129

<第10話> 派出所にて

 僕は、冬休みや年末年始が近づいてきてしまうと、年の瀬の忙しさも重なるので、のんびりとした聞き込み調査をしながらの旅行をするのは難しいと判断した。


 そこで、その前に旅行に行く事を決め、慌ただしく準備をした。




 N県に到着。

 到着したのは、県庁所在地でもあるN駅。


 僕は、まず海岸線の方へ移動して、それから周辺にいる人に写真を見せ、聞き込みをして回ろうと考えていた。



 駅の改札口を出てバスターミナルの場所を発見すると、その視界の端にある派出所が目に留まった。




 『道に迷ったら派出所で聞く』



 ドラマとか小説を見ると出てくる事もあるシーンだけれど、僕が実際に聞いてみるのはどうだろう?


 フッとそんな行動が頭に浮かんで来た。



 面接を受けた時に、人事担当の方と話したが、実際の派出所に勤務している警察官と話をした事は、一度も無かった。



(道を知らない僕が突然訪ねて行ったら、どんな対応をされるのだろう?)


 そんな好奇心が浮かんで来た。



 僕は、派出所に行ってみたくなってしまった。


 駅前の派出所は、入り口に警察官が立っているから、ガラス扉を開けて中に入って行く派出所よりも声を掛けやすそうな気がした。




「すみません、ちょっとお聞きしたい事があるのですが・・・。」

僕は、周辺を見ている警察官に近づいて行き、声を掛けた。


「どうしました?」

笑顔で若い警察官が答えてくれた。



「旅行先の場所を探しています。

 この写真の村の名前をご存知ですか?」

 僕は、写真を見せながら尋ねた。



「道を尋ねるなんて、若いのに珍しいですね。

 

 最近は、ご老人がたまに聞いてくる位ですよ。

 若い方は、スマホで検索しながら自分で探して行っているようですからね。」

警察官は、話を聞くと驚きながら答えて、写真を手に取った。


「『光輝夢村・・・』?これは何と読む村なのですか?」


写真の下に記された村の名前を見ながら警察官は答えた。



「すみません。僕も読み方が分からないのです。


 村の名前を検索しても、住所の詳細が調べられなかったんです。


 ここに写真の補足情報として、N県と記されていますよね。

 ですから詳細が分からなくても、地元の方なら知っているかもしれないと思って来てみたんです。


 実は、村を探す事が今回の旅行の目的なんです。」

 少々自分の無鉄砲ぶりを話すのは気が引けたが、そこは気合で話した。



「そうですか。検索出来なかった・・・。



 ちょっと待って下さい。

 一応もう一度検索もしてみましょう。


 自分は今、スマホを持っていないんです。

 派出所の中に置いてあるので、行きましょう。

 そうですね。中にいる者にも聞いてみましょう。」

 少し困惑した顔になった警察官は、ガラス扉を開けて派出所に入って行った。



 僕も警察官に促されて、一緒に後ろから中に入ると、ガラス扉の開く音を聞いて、すぐに奥から警察官が出て来た。


 「どうした?何かあったのか?」

 中から出て来た警察官が言った。


 「道案内です。

  奥村巡査部長、この村をご存知ですか?」

  若い警察官が尋ねた。




 「ん?スマホで探していないか?」

 奥村巡査部長は、こちらに歩いて来ながら答えた。


 「いいえ、これからです。

 N県にあるとの事なのですが、自分は見た事のない村の名前でしたので、奥村巡査部長にお伺いしてみました。」



「見た事が無い?どれ見せて見ろ。」

奥村巡査部長は、若い警察官から僕の写真を受け取り、見ていた。




「ん⁉・・・この村は・・・」


それ以上何も答えず、怪訝そうな表情を浮かべていた奥村巡査部長は、奥からスマホを取って戻って来た若い警察官に写真を戻した。



 若い警察官は、写真を見て入力をしながら聞いてきた。


「奥村巡査部長。

この草冠が切れている文字は、どのように入力すれば良いのでしょうか?」



「草冠が切れている???

 すみません。ちょっと写真を見せてもらっても良いですか。」



 僕は、気が付いていなかった。


 写真の村の名前は、『光輝夢村』の夢の字の草冠が切れていたのだ。



 「同じ字だよ。普通に夢と入れて検索をしてみろ。」

 奥村巡査部長はそう答えた。



 検索結果は、やはり僕と同じで何も出て来なかった。


「そうだ。何も出て来ないだろ。

その村は、もう無いんだよ。」

奥村巡査部長がつっけんどんに答えた。




「すみません、奥村巡査部長は、何かこの村についてご存知なのですか?」

 僕は質問をした。



「職務上、この村について答える事は出来ないんだ。



 大変申し訳ないが、どうしても調べたいと言うのなら、他で聞いてくれないか。」

 奥村巡査部長は答えた。



 若い警察官が奥村巡査部長の対応に、何かを聞きたそうな態度を取っていた。

 しかしそれを制しながら、奥村巡査部長は、僕に派出所からの退出を促した。



 有無を言わせない迫力だった。



「どうもありがとうございました。」

 僕は、礼の言葉を述べて足早に派出所から出て行った。



 少々苦い思い出となる派出所の初体験だった。


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