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黒曜石の呪縛  作者: 紗 織
本編
10/129

<第10話> 派出所にて

 冬休みや年末年始が近づいて来ると、当然大学は休みに入る。本来ならば、そうした休みを利用して卒業旅行に行くのが普通だろう。


 しかしながら僕の卒業旅行は、聞き込み調査を必要とする、日常生活をしている人たちの協力を得ながら進めていく旅行である。


 そうなってくると、年の瀬の忙しさも重なるのこの時期は、人々が気持ち的になんとなく慌ただしい毎日を過ごすようになってしまうので、僕には不向きな旅行時期になってしまうだろうと僕は考えていた。


 


 だから僕は、少々強行日程になってしまうが、その前に旅行に行く事を決め、慌ただしく卒業旅行に行く準備をした。




 そしてついに、旅行に出発する日がやってきた。


 さわやかな秋晴れの空に感謝しながら、僕の旅行は始まった。




 N県に到着。


 到着したのは、県庁所在地でもあるN駅。




 僕は、まず海岸線の方へ移動して、それから周辺にいる人に写真を見せ、聞き込みをして回ろうと考えていた。




 まず駅の改札口を出て、僕は最初にバスターミナルを目指した。


 僕は、(バスターミナルから海岸方面に向かうバスは・・・?と)周辺にある路線バスの案内図を探してキョロキョロと辺りを見回していた。




 すると、その視界の端にある派出所が僕の目に留まった。




 『道に迷ったら派出所で聞く』




 ドラマとか小説を見ると出てくる事もあるシーンだけれど、僕が実際に聞いてみるのはどうだろう?




 フッとそんな行動が頭に浮かんで来た。





 面接を受けた時に、人事担当の方と話したので、警察の職業の人と話をした事はあると言えるかもしれない。




 しかし多くの皆さんもそうかもしれないが、僕は、派出所の中に入った事は、今までの人生で一度も無かった。


 だから、そこに努めている警察の方と話すような機会も当然無かった。





(道を知らない僕が突然訪ねて行ったら、警察の方に、僕はどんな対応をされるのだろう?)




 少しの間派出所を眺めていると、僕の心の中には、そんな好奇心も浮かんで来た。





 気が付くと僕は、派出所の方へ少しづつ歩みを進めてしまっていた。






 今見えている駅前の派出所は、入り口に警察官が立っいた。


 だから、ガラス扉を開けて中に入って行く派出所よりも警察の方に声を掛けやすそうな気がした。






「すみません、ちょっとお聞きしたい事があるのですが・・・。」


僕は、周辺を見ている警察官に近づいて行き、声を掛けた。




「どうしました?」


笑顔で若い警察官が答えてくれた。



「旅行先の場所を探しています。


 この写真の村の名前をご存知ですか?」


 僕は、写真が印刷された紙を見せながら尋ねた。



「道を尋ねるなんて、若いのに珍しいですね。


 最近は、ご老人がたまに聞いてくる位ですよ。


 若い方は、スマホで検索しながら自分で探して行ってしまいますからね。」


 警察官は、話を聞くと少し驚きながらそう答えて、僕の紙を手に取った。




「ん?『光輝夢村』・・・???これは何と読む村なのですか?」


写真の下に記された村の名前を見ながら警察官は僕に聞いてきた。



「すみません。僕も正確な読み方が分からないのです。


 村の名前を検索しても、実は住所の詳細が調べられなかったんです。



 ここに写真の補足情報として、N県と記されていますよね。


 ですから詳細が分からなくても、地元の方なら知っているかもしれないと思ってとりあえずN県に来てみたんです。




 実は、村を探す事が今回の僕の旅行の目的なんです。」


 少々自分の無鉄砲ぶりを話すのは気が引けたが、そこは気合で話した。



「そうですか。検索出来なかった・・・。

 それは、当然お困りですよね。 


 ちょっと待って下さい。


 一応自分がもう一度検索をしてみましょう。

 もしかしたら何か出てくるかもしれませんからね。



 あいにく自分は今勤務中なので、スマホを持っていないんです。

 派出所の中には置いてありますので、一緒に中に行きましょう。



 そうですね。中にいる者にも話を聞いてみましょう。先輩は、自分より地理に詳しいですから。」


 少し困惑した顔にはなってしまったが、彼は、僕を連れてガラス扉を開けて派出所に入って行った。




 僕も警察官に促されて、一緒に後ろから中に入ると、ガラス扉の開く音を聞いて、すぐに奥から別の警察官が出て来た。




 「どうした?何かあったのか?」


 中から出て来た警察官が、僕の姿を見つけてそう言った。




 「道案内です。


  そうだ、奥村巡査部長、この村をご存知ですか?」


  若い警察官が尋ねた。



 「ん?なんだスマホで探していないのか?」


 奥村巡査部長は、こちらに向かって歩いて来ながら答えた。




 「いいえ、これからです。


 N県にあるとの事なのですが、自分は見た事のない村の名前でしたので、奥村巡査部長にお伺いしてみました。」





「おいおい、見た事が無い?だと。何を言っているんだ、情けない。


 どれ見せて見ろ。」


奥村巡査部長は、若い警察官から僕の紙を受け取り、ジッと見ていた。





「ん⁉・・・()()()()()()は・・・」




巡査部長は、そう短く言葉を発して以降、それ以上何も答えず、怪訝そうな表情を浮かべていた。




 そして彼は、奥からスマホを取って戻って来た若い警察官に、無言のまま写真を突き戻すように返した。





 若い警察官は、巡査部長の反応に少々驚いていた。


 しかし、巡査部長の顔つきを見て、それ以上何も聞かずに受け取った紙の写真の下に記されていた村の名前を見ながら入力を始め、検索を始めた。




「奥村巡査部長。


この草冠が切れている文字は、どのように入力すれば良いのでしょうか?」


 巡査部長の剣幕に少し恐縮しながらも、入力に困った警察官はたずねていた。



 この警察官の質問に、僕は驚いた。


「草冠が切れている???


 すみません。ちょっと見せてもらっても良いですか。」


 僕は、全然気が付いていなかった。


 言われた通りだった。よく見てみると、写真の村の名前は、『光輝夢村』の夢の字の草冠が切れていたのだ。



 「お前は何を言っているんだ。それは同じ字なんだろうよ。普通に夢と入れて検索をしてみろ。」


 奥村巡査部長はそう答えた。





 検索結果は、やはり僕と同じで何も出て来なかった。




「そうだ。()()()()()()()だろ。


 その村は、()()()()()()よ。」



 奥村巡査部長がつっけんどんにそう答えた。






「すみません、奥村巡査部長は、この村について()()()()()()()()()()()


 僕は、彼の反応を見ていてとても気になってしまったので、つい質問をしてしまった。




「職務上、この村について答える事は出来ないんだ。



 大変申し訳ないが、どうしても調べたいと言うのなら、(よそ)で聞いてくれないか。」


 奥村巡査部長は、にべもなく答えた。





 若い警察官が奥村巡査部長の対応に、何かを聞きたそうな態度を取っていた。


 しかしそれを制しながら、奥村巡査部長は、僕に派出所からの退出を促した。





 有無を言わせない迫力だった。



「どうもありがとうございました。」


 僕は、礼の言葉を述べて足早に派出所から出て行った。





 少々苦い思い出となる派出所の初体験だった。

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