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黒曜石の呪縛  作者: 紗 織
プロローグ
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<第1話> 居酒屋の二人

 桜の蕾が少しずつ膨らみ始め、固くて黒い上着の下から淡いピンクの花びらの衣装が見え始める頃、季節は春が確実に近づいてきているのを感じる。



 ジッと冬の寒さを耐え忍んでいた植物達は、穏やかで優しい日の光を浴びて一斉に新芽を出し、花を咲かせ始める。



 そして人間社会も新入生・新社会人・・・新しい生活を始める人々で、街も華やかな明るい雰囲気を装い始める。




 このすべての生き物が色めき出す時期になると、やはり同じように春の華やかさの影響を受けているのであろうか・・・、普段とは違う行動を取り始める男がいた。




「青野、明日の夜まで何も問題が起きなかったら、久々に食事に行くぞ。」

「いいですね、黒川さん。ぜひ行きましょう。」



そして青野は、この日居酒屋に着いてから調子よく注文を決めていく黒川の様子を眺めながら、去年ふと疑問に思った『この事象』に改めて気がついたのであった。



「黒川さん、普段はほとんどお酒を飲まないのに、この時期になると・・・、もちろん一杯だけですけれど、食事と一緒に不思議とお酒も注文しますよね。」


 向かいに座った青野が、黒川に笑顔で話し掛けてきた。




 「ん、桜も綺麗に咲いたし、まぁ一杯飲もうかなって思ったんだが、そんなに不思議だったか?」


 黒川が、驚いたように答えた。


 どうやら本人には、その自覚は全く無かったようである。






 「そうですね。


 僕の記憶では、春の桜が咲くこの時期にだけ、食事と一緒にお酒もどうだ?って僕にも誘って来ていますよ。



 普段の黒川さんなら、

 『いつ何時、仕事の呼び出しがくるか分からん。

 

 それにそもそも酒という物は、人の冷静な判断を妨げる飲み物だから、本当に必要な時以外は飲まない方が良いんだぞ。』


 って食事だけをして、お酒は飲まないじゃないですか。





 そうですね、黒川さんが飲むとしたら、それは落ち込んだり悩んだりした時だけです。


 だから、お酒はそんな時にだけ自分が復活するために必要になる、黒川さんの栄養ドリンクのような存在なのかな?って僕は考えていました。」


 青野が真顔で答えた。






 黒川と青野。


 警視庁捜査一課に所属する二人がコンビを組むようになってから早いもので数年の月日が過ぎていた。




 新人だった青野は、様々な事件で捜査の経験を積み、今では敏腕刑事として知られる黒川に相棒として認められる、一人前の刑事に成長していた。

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