005
「……、暇ね」
私はベットに横たわりながら、心の中で文句を言う。別に病気ってわけじゃないのよ…?もっと自由にさせてほしい。
シン様と約束してから、はや2週間ちょっと。
はじめの1週間はシン様の溺愛っぷりが、そして、後の1週間はメイドたちの過保護っぷりが、凄まじい。
まあ、はじめの1週間もメイドたちの過保護、後の1週間もシン様の溺愛はひしひしと感じていたのだが。
はじめはなんでも世話をしたがるシン様によってメイドたちの存在感が隠れてしまっていて、今はシン様がお仕事でこの国を離れてしまっているので1週間前の溺愛さは身を潜めている感じのが理由である。
「あの、仕事は……」
「旦那様からしばらくお仕事はお休みと伺っております!どうぞごゆっくりお身体をお休めください!」
公爵家の妻なら、たくさん仕事があるはず。シン様からは話をされていないが、どこかに溜まっているのでは。以前のようには行かなくても、処理できるものがあるのではとメイドに声をかけてみるが、仕事がもらえないどころか、ベットに戻されてしまう。
いやいやいや、流石にもう寝ないって。
「あの、何かお手伝いを…、」
「いえいえ!奥様にそんなことをさせるわけにはまいりません!」
なら、何か手伝いをと違うメイドに申し出る。掃除に洗濯、料理と一人暮らし経験者なので一通りの家事は余裕だ(と、言っても伯爵令嬢も自分のことは自分でするしかなかったが。その時は生きるために最低限という感じで、腕を磨いたのは、一人暮らし始めて余裕ができてからだ)。あと、なんなら、食材を一から取ってくるところからだってできる。
しかし、全力で断られてしまう。そして、奥様が私たちのお手伝いをなさるのではなく、私たちが奥様の手伝いをするのです!と一層何から何まで世話をやかれてしまう。
入浴中、身体まで洗われると流石に恥ずかしくて泣きそうになった。
「ちょっと、図書館に行きたいのですが…、」
「どのような本をお探しですか?私が見繕ってまいります。……、ご自身で探されたいと?もし、迷子になったらどうするのですか…?それに、上から本が落ちてくるなんてことも」
暇だからせめて時間潰しに本を読もう。図書館に行こうとすると、メイドたちは顔を真っ青にして、行ってはいけないと説得される。いやいや、流石に迷子にはならんって…、本が落ちてくるのもどういう状況!?とツッコミたいが、それに加えて、それで大怪我なんてしないって!!と声を大にして伝えたい。
こんな感じでシン様がこの屋敷から離れて1週間、基本的には部屋から出れていない。
もー、暇で暇で仕方ない。過保護にも程がある。以前からこうだったのか、記憶障害が診断されたからこうなのか…。
唯一の1人でやれることと言ったら、シン様から毎日届く何かしらのプレゼントを開けることと手紙を読むことだろう。流石に手紙の朗読はされていない。
はじめは大変だろうし返せるものも手紙だけだし貰えない、と考えていた。でも嬉しいのも事実で、加えて、変化のない日々の中の楽しみになってきている。
メイドたちに悪意がないのは、むしろ善意から成り立っているのは、明白だ。その態度を見ればわかる。
でもでもでもっ!お世話されるのも過保護にされるのも柄じゃない!!部屋から出られないとか軟禁よ!!出してよー!出たいよー!
心の中で抗議をしまくった。
あ、そうだ。夜!そうよ、夜よ!!夜部屋から抜け出して、みんなが起きる時間までに部屋に戻ればばっちりよ!!
そうして、どうせ昼間は部屋から出れないならと夜に動くことにして、仮眠をとり始めた。