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004


「ほんとに行かなきゃダメかな?」

「だめです」

「どうしても行かなきゃいけない?」

「どうしてもです」

「欠席にはできないかな?」

「はぁ……、諦めて大人しく会議に参加してください。ただでさえ、この前の会議に欠席したというのに…。しかも、こんな直前までただをこねないでください。もう出発の時間ですよ」


 奥様からも何かおっしゃってください、とシン様の秘書官であるレイノルド・アイデルシュタインはこちらに目を向けた。


「えっと、頑張ってきてください。シン様」


「ほら、奥様が応援されてますよ。シン様は奥様の期待を裏切るおつもりですか?」

「……、その言い方は狡いよ。わかったよ、いってくる」


 そう言って彼は馬車の待っている庭へ向かった。私はお見送りのため、その後に続く。




 私がこの屋敷で目を覚ましてから、目の前にいるシン様と約束を交わしてから1週間。

 

 彼はそれはもう私のことを大切に扱ってくれた。忙しいだろうに、屋敷の案内や使用人たちの紹介も誰かに任せることなくシン様の手で行ってくれた。それに、公務以外の時間は全て私に当ててくれてるようだった。

 

「そんなに私にばっかり時間さかなくても大丈夫ですよ」と、3日目にして早々に言ったら、「迷惑、だったかな?」と、なんとも悲しそうに聞かれてしまい、思わず首を横に全力で振った。

「なら、少しでも一緒にいさせてよ」と穏やかに告げられてしまった。

「ほら、だってお仕事とかで忙しいでしょうし、1人でゆっくりと休まれた方がいいのでは」というと、嬉しそうに「心配してくれてるの?ありがとう。でも、リリーといると癒されて疲れなんて吹っ飛んじゃうから、1人でいる時よりもこっちの方が回復してるよ」と言われて仕舞えば、返す言葉はなかった。

 

 

 また、彼は私に好きになってもらえるように頑張るという宣言通り?存外にぐいぐいくるが、本気で嫌がってることはしてこない。

 レイノルドによると、以前は目に余るほど接触過多でいちゃいちゃしていたらしいが、今は無闇やたらに触れてくることがないらしい。

 それにしては、私の食事中にあーんをしたがったり、何かするたびに褒めてくれたり、毎日プレゼントが贈られたりと、私からしてはこれ以上とかあるの!?という状態だが。



 そして、そんな感じで溺愛されて1週間後。冒頭のシン様とレイノルドの会話に至る。私の側をできるだけ離れたくない、他国に行きしばらく屋敷を開けるなんてもってのほかだというシン様と私が目を覚まさなかったことで前回の会議を蹴った上、今回もサボろうとは何ごとだというレイノルドの言い争いである。

 

 一応補足しておくが、別にシン様が仕事を蔑ろにする人間とか、サボり癖がある人間とかそういうことではないらしい。

 会議に参加するのに乗り気ではなく見えた彼は私が知っているシン様と、私への態度だけでなく仕事への態度も真反対なのかと一瞬、疑った。私の知っている彼は仕事ができる人間だったし、それを嫌がるなんてしなかった。

 しかし、目の前の彼も普段は仕事に真面目らしい。

 私が寝たきりだった間は私のことが心配で手がつけられないながらも必要最低限にはこなし、起きてからは私との時間も作りながら、寝る間も惜しんで、しかし、集中力の欠けることなく効率的に仕事をこなし、溜まっていた仕事を捌ききったらしい。


 

 今回の抵抗は、私への心配が膨らんだ結果みたいだった。

 会議は隣国で行われ、2週間程度かかるらしい。だから、長期間屋敷を開けることとなり、原因不明の記憶障害を発症してることとなっている私を置いて行きたくなかったらしい。私を連れていく案も考えていたが、元々の知り合いがわからず危険なことも多いと判断された。貴族の中の派閥があり、公爵家として高い地位にいることで敵も少なくないらしい。とりあえず、当面の間、私が社交界に出るのも控えるということだった。



「リリー」

「はい、なんでしょうか?」

 馬車に乗り込む前に立ち止まり、こちらに振り向いた。

「俺がいない間に危ないことしちゃダメだからね」

「…?はい」

 危ないこと…?特に何もする予定はないが、疑問に思いながらも素直に頷く。やはり、会議への出席を決めたはいいが、心配は消えないらしい。

「ちゃんと10時には寝るんだよ」「ご飯もしっかり食べてね」「薬は飲み忘れないこと」「もし、何かあったら、すぐ言うんだよ」「最近寒いから暖かくしてるんだよ」

 つらつらと注意点を並べる彼に心の中で思いっきり私の母親かっ!と突っ込んだ。

「あと、危ないことは絶対にしちゃダメだよ」と言われ、2回目だよ。どれだけ危険人物なの!?とも突っ込んだ。心の中で。


 そして、痺れをを切らしたレイノルドに押し込まれ、シン様は会議へ出発した。

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