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003

 いくつもの質問に答えて、お医者さんから下された診断は記憶障害だった。


 結局、お医者さんの言うことだと、おかしいのは、シン様ではなく、私。まあ、私からしたら、世界ごとおかしくなってしまったようなものだ。


 私の診断結果を聞いたシン様は悲しそうに目を伏せた。彼の方が正しいなら、突然奥さんが眠り続けて、起きたら、記憶障害。そりゃ落ち込むかもしれない。

 


「えっと、ごめんなさい……」

 あなたの知っている私じゃなくて。

 

 でも、やっぱり、信じられないし、結婚したのが事実と言われたところで彼のことを好きになれるわけもない。と思う。いくらお医者さんにも目の前のシン様にも否定されたところで、非現実なことが起こったところで、私の中では、シン様に殺されそうになったことが真実なのだ。


「リリーが悪いわけじゃないんだ……、気にしないで」

 そうは言われても…。一番気にしてるのは、彼なのだ。彼が落ち込んでなかったら、じゃあお元気で。と言ってこの場をされるくらいには、記憶障害を下されたこと自体は気にしていない。そもそも、記憶障害じゃないし。


 問題は、彼が旦那さんということを第三者からも宣言されたこと。また、彼と結婚したことにどうしても納得していない私に、お医者さんが何が刺激になるかもと、私たちの結婚式の新聞を持ってきたことで証拠も出てきてしまったこと。


「リリーは、俺のこと怖い…?」

 恐る恐る、と言った風に尋ねられた。全部は話していないけど、彼が私を殺そうとしたと、さっき話したからだろう。

 怖くないと言えば嘘になる。けど、彼の声は震えていて、なんなら握られている拳まで少し震えている。私よりずっと怖がっているように見える彼に思わず首を横に振った。

 

「それなら、良かった」

 ほんとに安心したように、彼は笑う。ほんとは、心のどこかで怖いと思っているのが申し訳ないほど、ほっとした笑顔だった。外見は一緒でも、記憶の中の彼とは別の人。そう思った方がいいのかもしれない。その笑顔が記憶とあまりにもかけ離れていたから。


「なら、俺にもう一度チャンスをくれないかな?」

 

 チャンスとは、何のことだろう。何か、彼は私と約束でもしてたのだろうか。

 不思議そうに首を傾げた私に続ける。


「君に、俺のこと好きになってもらえるように。頑張るチャンスが欲しいんだ」


「でも、」

 私は別人だと思うことにしても、シン様をもう一度愛したりなんかしないと思う。名前も外見がまったく一緒な彼を愛せる気がしない。


「お願い、だから」

 しかし、切実にそう言われたら、私には、頷くしかなかった。


「わ、かりました。でも、条件を出してもいいでしょうか?期間を決めたいです。その期間を越したら、離婚か別居、または見かけだけの夫婦で納得していただけませんか?」

 そっちの方がシン様のためにもなる。だって、彼は地位もあるし、かっこいい。おまけに今は優しそうだ。振り向かない私の相手をするより、私のことを忘れ、早々に別の女の子と恋をする方がいいだろう。

 これを言うことで傷つけちゃうことは憚れるが、もうすでに傷つけているし、これからも傷つけてしまう。なら、期限を決めた方がいい。


 彼はやはり、傷ついたような暗い顔をした。それから、表情を変え、「わかったよ、それまでに好きって言われるように頑張るね」と言った。


「それで、期間はどのくらいなの?」

「一年がいいです」

 私からしたら、短ければ短いほどいいのだけど。あまり短いと納得してもらえないかもしれない。


「…………、せめて、3年じゃだめかな」

「なぜ、ですか?」

「それは、……」

 3年と提案されたが、理由はなぜかいい淀んでいた。……3年後か。私が18だから、多分彼は20歳だったと思う。3年後なら、23歳。幼い頃から婚約者がいた身としては、23歳は遅い気がするけど、一般的にはまだ間に合う年齢かもしれない。


「わかりました。3年後にしましょう」

 言いづらいなら無理に聞かなくていいやと思い、また、3年後でも間に合うと決断した私は、その条件を呑んだ。


 

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