002
どうするべきか。
至極当然、さも当たり前。そのように、自分が私の旦那さんだとシン様は宣った。
そんな記憶ない。彼の中ではいつの間に私と結婚式を挙げたのだろうか。
もしかしてシン様、記憶捏造した…?いやいやいや、まさかまさか。彼がそんなことするメリットなんてかけらもない。
混乱している私にシン様は不思議そうにしている。
「もしかして、寝ぼけてるのかな?いつもより、反応鈍いね」
「そう、かもしれませんね…、」
寝ぼけてるのかもしれない。いや、それよりもここが夢の中ならどれだけ良かったことか。頬を思いっきり、つねってみる。…、痛い。これで夢の線は薄くなってしまった。
「りりー?ちょっとごめんね」
ぴたっと、彼の手が私のおでこに触れた。んー、熱はないよね?とぶつぶつ呟いている。
「ひゃっ!?し、シン様…!?」
数拍遅れて、今の状況に驚いて、飛び退けた。彼に触れられることなんて、今までなかった。それをこんなにも簡単に。
シン様は、シン、ね。と一言訂正してから、やはり心配だという顔を向けてきた。
「なんだか、ぼーっとしている気がするけど…。
頭痛いとか、気持ち悪いとかないよね?」
不安げに尋ねられるが、今のところ体の不調は思い当たらない。目の前に信じられない光景が見えること以外は。
「それは、、大丈夫です」
でも、目の前の光景は、理解できなすぎて気持ち悪いぅちゃあ、気持ち悪いかもしれない。態度が極端すぎて、ギャップにきゅんっという感じではないのだ。
一つ確認いいですか?と言いながら、少し後退りした。
「えっと、シン様は、」
「シン」
3回目の訂正が入り、しぶしぶ、様は心の中に留めておき、表面上はシンは、と言い換える。
「私のこと、どう思ってるのですか?」
彼はなんでそんなこと聞くの?と言いたげに目を丸くした。続けて、「私のことを殺そうとなさらないのですか?」と聞く。まあ、簡単に殺される気はありませんけど。
私にとって、一番重要な点はこれだろう。状況をよみ今のところ生死に関わる問題がシン様だけだと思うから。そして、一番気になる点もこれ。あまりに殺すという雰囲気が似合わないほど、彼のそれはなぜか和やかだ。
「えっ…?」
リリーは今なんて?聞き間違い…?とぼそぼそ呟いてから、ごめん、よく聞こえなかった。もう一回いい?と問われた。
「だから、もう私のこと殺そうとしないのですか?」
「誰が…?」
「シン、が」
「俺が?」
「はい、」
読み込みが遅い。
彼の頭の回転は速いはずなんだけど。なんだか、外国の言葉のように理解ができていない気がする。俺が、リリーを、殺す?と単語レベルで分解していた。
まあ、これなら、殺される心配はなさそうだ。演技ならなかなかなものだが、こんな演技する必要があるはずがない。と思う。彼が思いっきり頭に?を浮かべて、必死に私が言った言葉の意味を考えているようだった。
一方、私はこれからのことについて考える。殺されないなら、森の奥で隠れるように暮らさなくても大丈夫なはずだ。街にでも働きに出てみようかな。結婚していると言われた衝撃の事実は一旦、頭の隅に追いやり、わくわくと将来設計を立てる。
「どうして、そう考えたか教えてもらってもいい?」
彼の方は整理がついたのか、声をかけてきた。
「どうしてって…、だって殺そうとしてたじゃないですか」
「殺そうとなんてしたことがない!!」
大きな声で反論されたので、少しびくっとする。こんなに大声が出るのか。
「殺そうとなんてするわけがないよ」
続け様にそう言い、あまりに、悲痛そうに眉を顰めるので、申し訳なくなってくる。
「やっぱり、もう一度医師を呼んでくるよ」
しばらく彼は黙った後、表情を暗くしたまま、そう告げた。
「もう一度…?」
さっきもお医者様の話が出たが、大事にしたくないって断ったはずだ。
シン様はもう一度説明した方がいい?と言って、私がある日突然、起きてこない日があって、そこから1週間原因不明で起きなかったこと。この間に毎日お医者さんを呼んだが、私が起きた時は2、3時間前に本日の分呼んでいたしそのお医者さんは少し離れたところに診察に行ってしまったので、また診てもらうのは明日になることを話された。だけど、やっぱり、他のお医者さんでもいいから一回急いで診てもらうべきということらしい。
そんな話聞いてない。しかし、私が目を覚まして直ぐに言われたらしい。シン様の変わりようやここの場所がどこか、考え込んでいた時なので、聞き流してしまったのかもしれない。
それにしても1週間かぁ…。1週間前は魚獲りをしてたなぁなんて思いを馳せる。釣りではなく獲り。釣り竿を買うお金がなかったので、手掴みだ。もちろん、寝込んでいた記憶はない。
お医者さんを呼ぶほど身体の不調を抱えていないが、おかしいのは彼か私か、第三者はどう見えるのか気になったので、やはり診てもらおうかと、考えを改めた。