019
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「あの、」
「ん?どうしたの?」
沈黙の中で問いかけだ私に、シンは優しく返事を返してくれた。しかし、状況はあまり優しくないが。
帰りの馬車の中。シンの反対側に座っていたはずなのに、彼の手によって引き寄せられ、今は彼の膝の上だ。
いくら、馬車の中は2人っきりだとは言え、こんなにくっついているのはいかがなものなのだろうか。
「ちょっと、近くない?と思いまして……」
「そうかな?俺はちょうどいいと思うけど」
いやいやいや。ちょうどいいって何!?こんな近いのにちょっど良いってことあるの?
「いや、やっぱり、ちょっと遠いかもしれないね」
私は、近いと、言いました!これ以上。近づくとしたら、もう、べったりじゃないか。べったべたじゃないか。
だから、近いって!と抗議したが、シンは何食わぬ顔で私の手で遊んでいる。彼の指を私の指に絡ませてみたり、私の手首を握って上下に動かしてみたり、私の手を使って拍手してみたり。
「なんで、ユリウスには自分からハグしたのに、俺にはしてくれないの…、俺、リリーの旦那さんなんだけど」
少しトーンの落ちた声でそう言われた。彼はやきもちを妬いていたのか。そして、この行動はやきもちの現れだったのか。そう思うと、きゅんとした。なんか、可愛いかもしれない。
私は近いと言う抵抗をやめて、大人しくされるがままになった。ユリアも昔はすごく可愛がっていたし、さっきのユリウスも撫で回したくなったし、今のシンの行動にもキュンときたし、私はなんだか年下属性に弱い。シンは歳上だけど、レオン様という兄がいる弟なんだよなぁ、と思う。恋愛感情ってわけではないけど、なんかこう癒される感じがする。
シンなら嫌がらないかなと、手を伸ばして、よしよしという風に頭を撫でた。いや、落ち込ませちゃった原因は私なのだけど、ハグはハードルが高い。
「リリー?えっと…?」と、シンは、困惑していた。
わぁ、珍しい。時々、彼は私の頭を撫でてくれたが、される方は慣れていないのか。いつもの仕返しという様に、彼の混乱を無視して、撫で続ける。
「面白がってる?」
困ったように少し眉を下げながら、聞かれた。確かに面白いかもしれない。
「嫌…?」
そう問い返すと、いや、ではないんだけど。……、むしろ嬉しいよ。と返ってきた。反応からも嫌がってないことがわかり安心した。
ふと、外を見てみると、なんだか来た道と違う道を通っているみたいだった。どこか行くの?と聞くと、思い出の場所と、返ってきた。