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015


「シン様、教えてください。貴方の知っている私はどんな人ですか?私の家族は、先ほどの弟は、シン様はどんな人なのでしょう?」

 去って行った弟を見て、もっとこの世界を知ってみよう、歩み寄ってみようと思った。いつか、この世界にいるべき私にこの場所を返さなきゃいけないのだから、それは無駄かもしれない。


 でも、私がもっと知ろうと思っていれば、少なくとも弟をあそこまで悲しませることはなかった。この家に来る前でも、馬車の中でも、シン様に私の家族のことを聞けば、弟に関する記憶はなくても少しくらい知識は得られていたはずだ。そしたら、もっといい対応ができたかもしれない。


 きっと、嫌だったのだ。この世界のことを知ってしまうのは。この世界の私は何もかも羨ましいすぎるから。


 でも、だからと言って、これ以上傷付けるのも嫌だ。弟もシン様もレオン様もジュナも、まだこの世界では会っていないがお父さんもお母さんも。


 だから、この世界の私を知って、彼女に近づかないと。みんなのことを知って、うまく振る舞わないと。


「うん、わかったよ。せっかくだし、リリーとの思い出の場所にも行ってみようかな」

 シン様は快諾してくれた。彼は私の記憶を早く元に戻って欲しいと思っている。思い出の場所を教えてもらったところで、思い出せるはずがないのが申し訳ない。


「ありがとうございます、あっ、あの、シン、って呼んでもいいですか?」

 そう言えば。シン様は初めの頃、シンと呼んでと言っていたのを思い出す。あの時は混乱していたし、呼び捨てなんかにしたら無礼だと殺されそうな気もしていたが、この世界の私に返すまで、彼女の振りをし、この世界の人たちと歩み寄るために、彼女のことを真似て見る必要があるのかもしれない。


「それは、大歓迎だよ。ついでに敬語もやめてくれると嬉しいんだけど」


「わ、わかった。シン、ありがとう。」

 10年ちょっと。彼をシン様と呼び、敬語を使ってきたから、違和感は拭えないが。でも、なぜかしっくり

来るものもある。


 こちらこそ、と言って私の頭を撫でた彼は、どことなく嬉しいという雰囲気を放っていた。


 彼の話は、ほとんど惚気みたいなもので聞いているわたしが恥ずかしかった。聞いておいてなんだが、本人に話す話ではないと思う。いや、他人に話すのも恥ずかしいからやめて欲しい。心の中に秘めて置いて欲しいものだ。主な内容は如何に幼少期から私が可愛かったか、についてだった。


「も、もうわかったよ。恥ずかしいのじゃなくて、なんか他の感じないの?」

「うん?他の話ねぇ。あっそうだ、リリーが初めて俺にくれたものについての話とかどうかな?あれは、忘れもしないよ」


 ――――――――――


「しん〜!」

 リリーは、そう言ってとてとてと、こちらへ走ってきた。俺より幾分も小さい体で一生懸命走ってくる姿は、あどけなくて可愛い。

 そのまま、勢いに任せて飛びついてくるリリーを難なく受けとめる。


「あのねっ、あのねっ!これ、なんだと思うっ?」

 くふくふと、可愛いらしく笑いながら、リリーは俺に抱きついたままそう問いかけてきた。


「ん〜?何だろうなぁ」

 彼女が手に持っていたのは、ピンク色の封筒だった。レースやハートなどがたくさん描かれており、如何にもリリーが好きそうな封筒だ。誰かからもらったものを見せにきてくれたのだろうか。


「これはシンにね、あげるのっ!」

「俺に!?ありがとう…!嬉しいよ!」

 まさか、俺宛てだったとは。びっくりしたが、喜びがそれを上回った。この封筒には何が入っているのかなとそわそわ、しながら受け取る。受け取った封筒を見て見ると、大きな文字で しん へ と書かれていた。

「これは、リリーが書いたの?」

 びっくりしながらそう尋ねた。俺がリリーの年の時は文字を書くどころか、読むのだってそこまでできていなかったのだ。

「そーだよっ!りりぃが書いたのっ!」

 元気よくそう返事するリリーの頭を、すごいね、上手だよ、と撫でる。彼女は上機嫌にえへへ〜、りりぃ、がんばった!と笑っている。うんうん、がんばったね〜とリリーの言葉に乗っかる。

 開けてもいい?と聞くとまたまた元気な声でどーぞっ!と返ってきたので、丁寧に開けて、中を見て見る。

中には折られていた紙が入っていた。もしかして、リリーは俺にお手紙を書いてくれたのかな?とわくわくしながら、中を開いた。

 

「あのねっ、しんが1番なの!」

 リリーはそう言って、小さい手でぱちぱちと、拍手をした。ん?俺が一番?と首を傾げた。


「何の一番なの…?」

「これっ、1番!」

「もしかして、リリーは俺に一番最初にくれたの?」

「そーなのっ!」


 それは、嬉しい一番だ。心がほんわかと温まっていくのを感じた。

 

「俺が一番でいいの?」

「シンがいいのっ!」


 リリー、ありがとう…!!と言って、リリーを抱きしめる力を強めた。もちろん、彼女が痛がらない程度にだ。リリーは、きゃっきゃと楽しそうにしていた。やはり、リリーは可愛い。


「あとね、」

 リリーは、声をひそめて、俺の耳元で囁いた。

「これ、ただのお手紙じゃないの、らぶれたぁだよ、りりぃはしんのこと大好きだから、いちばんのお手紙はこれ書こうって決めてたのっ」



 ――――――――――


「その時のリリーは可愛くって可愛くって。初めての手紙を俺に、しかも、ラブレターって言ってだよ。こんな可愛いことあるのかな…?」


 結局そこに辿り着くのね。

 もうその話はいいって、この世界の私を彼が好きなのは充分伝わったから!


「わ、わかった。もういいよ、ありがとう」

「えっ、まだ途中なのに…」

 すごくがっかりした顔をしてるが、気づかない振り、気づかない振り。この調子だと日が暮れてしまう。


 そして、他の話題を話そうと思った時。

「よくきてくれたね、二人とも」と声が掛かった。

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