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013

「はい…………??」

 そんな。ユリアがいないなんて。いやいや、信じられない。


「シン様も冗談をおっしゃるのですね??」

 ふふふっ、珍しいですね。と大袈裟に笑う。


「いや……、その、また今度出直すことにしようか。今回は、俺一人で挨拶に言ってくるよ」

 こちらを気遣って、今回は家族に会うのをやめとこうと言ったシン様にユリアがいないのはほんとなんだなぁと感じた。


「あっ、いえ。大丈夫です!せっかくここまできたのですし!ちょっと寝ぼけてたみたいですね!そういえば、お父さんとお母さんの3人家族でした…!」

 

 そうか、ユリアはいないのか。会いたくなかったのはほんとだけど。

 存在してないとしてないでモヤモヤする。私の人生に良くも悪くも多大なる影響を与えた子だった。

 あの子がいない世界の私はどう成長していたのか、まあ、それなりに愛されていたのが分かる。


 ふと、思う。それじゃあ、もしこの世界にもユリアがいたら、目の前のシン様は、私が知っているシン様のように、ユリアの方を好きになっていたのだろうか。シン様が私のことを好きだと言ってくれたのは、ユリアがいなかったからなのか。


 …………………………。

 いやいやいや。首をぶんぶんと横に振る。

 そんなの考えたって関係ないじゃん?


 それに、シン様が私を好きって言ってくれなくたっていいじゃない。そもそも、このシン様とは遅くて3年したらお別れ、早くてすぐにでも、私の世界に帰りたいんだから!


「リリー」

 シン様に名前を呼ばれ、顔を挙げると彼の端正な顔立ちが近くにあった。しかも、彼の手は私の肩の上に乗っている。


「な、なんでしょう?」

 近い近い近いっ!び、びっくりした〜、とどくどくいう心臓のあたりを抑える。考え事に集中してしまう癖は、どうにかすべきなのかもしれない。


「ほんとに会いに行って大丈夫?嫌だったら、今から引き返してもいいんだよ。俺が無理にここまで推し進めてきたようなものだし……」

 ユリアのことで余程私は驚いた顔をしていたのかもしれない。ほんとに驚いたし、もやもやしたが、なんなら、ユリアがいないとわかった実家なら先ほどより抵抗はない。


「大丈夫です、シン様は心配症ですね」

 あまりに心配そうな顔をするが、見慣れている彼は無表情がデフォルトだったのでいまだになれない。その表情の差が少しおかしくて、口を手で押さえ、ふふ、と笑った。


「心配くらいするよ、リリーは俺の大事な人なんだから」

 彼は、そう言いながら、私の頬を撫でた。

 シン様!?接触過多です……!

 この空気に水をさすのはいかがなものかと思い、口には出さないで心の中で抗議した。


 それから、シン様は少し言いずらそうに、私の名前を呼ぶ。なんでしょうか?と首を傾げて、彼の言葉を待った。

「これ以上混乱させるのは嫌だし、今言うか迷ったけど、いずれ知ることになるから。

 落ち着いて聞いてね、君は、3人家族じゃなくて、4人家族だよ、」


 なん、だと。ユリアはいないが、4人家族なの?えっ?妹じゃない兄弟がいるってこと?

 ちょっと、落ち着け、私。これ以上、シン様を心配させてどうする。

 もう、完全に別物と考えよう。私の記憶を基準にするから混乱するのだ。ここはここ。とりあえず、この世界で元々受け入れられていた私をこの世界に戻すまで、できる限り、彼女の代わりをしようと決めたじゃないか。


 一度、深呼吸をして。


「そ、そうでしたね!4人家族でした!」

 と、思い出しているわけがないが、そう告げた。しかし、兄、姉、弟、のどの関係性だろう。


「おかえりなさい、姉さん。中々家に来ないから、なんかあったのかと思った」

 私がうーん、と悩んでいると、家の方から出てきた誰かに声をかけられた。茶色い髪に翠の瞳の青年が、こちらに向かって歩いてきていたのだ。

 姉さん?ここにいる女性は私しかいない。そっか、弟だったのか。私の兄弟は。


 彼は途中で止まり、こちらをじーっと見ている。

 なんだろう?私も彼を見つめ返す。

 うーん、しばらく見ていると、なぜか彼を撫で回したい衝動に駆られた。手を伸ばしたくて、うずうずする。

姉さん、って呼んでくれたし、弟なら撫でてもいいのだろうか。いや、年頃の男の子にそんなことしたら嫌がられるだろう。


「姉さん?来ないの?」

 はわっ!?そ、それは撫でていいと言う合図ですか!?

 青年は手を広げていた。思わず、飛び込みたくなった衝動を抑える。いやいやいや、一応、弟みたいだけど。私は彼を知らないのだ。ここで飛び込んだら見知らぬ年下の青年に抱きつく犯罪者の出来上がりだ。変質者だ。捕まっても文句を言えない。


 ほんとに彼のことを知らないはずなのに、見つめていると弟ということは妙にしっくりくるし、可愛がりたくてたまらない。


「ちょっと、義兄さん。姉さんの様子が変なんだけど。なんか知らない?」

 青年は、じとりとシン様を見た。いつも抱きついてくるのに、今日は全然来ないんだけど。と、ぶつぶつ文句を言っていた。


「弟離れした、とは考えないのかな?」

「はぁ?なんで?そんなのする必要はないよね」

「うーん、まず、君が姉離れした方がいいかもね」


 なんか、バチバチ言ってない?青年はシン様を睨んでいるし、シン様は笑顔が怖い。ユリアとシン様は仲良かったけど、弟とシン様はあまり仲がよろしくないようだ。


 シン様のこの態度は初めてみるし、弟は存在の認識さえ初めてなので、なんて二人に声をかけるべきか、そもそも、この言い争いは止めるべきなのか。

 よくわからず、えっと、喧嘩は良くないかも、しれません…、と言っておろおろするしかなかった。

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