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 しばらく、歩いていくと客間があり、そこに3人で入っていく。シン様とレオン様は対面した位置に座っており、私はレオン様の隣に座るのも変なので迷わずにシン様の隣に腰掛ける。


「リリー、君の場所はそこじゃないよ」


 シン様にそう言われて、レオン様の隣に移動しようとする。だって、4人がけの机で今の場所以外はレオン様の隣しかない。シン様がそう言った理由はよくわからないが。


「そっちでもないよ。ほらここにおいで」


 そう言って、シン様は自らの膝の上をぽんぽんと叩いた。どう見てもシン様の膝の上に座れと言われている気がする。


「えっと…、」と戸惑い返答に困っていると、「久しぶりに会った可愛い俺の奥さんが他の男にお姫様抱っこされてたんだよ。…少しくらいだめ?」と問われてしまった。

 少し、寂しそうにいうので、うっ、とダメージが入る。いや、確かにシン様のいい分もその通りだ。それに、レイノルドの話だとシン様は記憶障害を発症していると考えられる今の私に触れるのを随分と我慢しているようだった。それでも私にしては、撫でたり手を繋いだりとナチュラルにボディタッチは多い気がするが。

 

 悩んだ末におずおずと、彼の上に座った。なんとなく恥ずかしくなって俯く。


「おいおい、そんくらいでヤキモチ妬くなよ。あんまり、やり過ぎると嫌われるぜ」

「…………、嫌だったかな?」

 シン様はレオン様にそう言われ、少し心配になってきたのか、こちらにそう問うてきた。恥ずかしいが、嫌というわけではなかったので、首を振る。


「あー、はいはい。相変わらず、仲がいいみたいで。少し様子が変だったから喧嘩でもしたのかって心配したんだぜ。それで、話したいことって?」

レオン様が本題について問うと、シン様は、私が原因不明で一週間寝たきりだったこと、記憶の混濁が起こっていることなどを話した。


「はぁ!?そんなやばいことになってたのかよ!?なんでもっと早く相談してくれなかったんだ!それにそんな状態のリリアーナを10日間も屋敷に残して会議に出たのか!?予定より早く終わらせたからって10日は長いだろ!話によると、屋敷の中でリリアーナが知ってるのはお前だけでメイドたちの名前やどういう人物か知らないんだろ?ただでさえ、混乱しているのに、見知らぬところにそんなに置いてったのか!?」


 わぁ……、彼も過保護だぁ。あまりの迫力に思わず少し後方に重心を倒した。別にそこまで気にすることではないのだけど。

 しかも、元々2週間の予定のところシン様がぱっぱと会議を仕切って、10日で戻ってきたらしいのに。4日早めただけでもすごいのに、レオン様はシン様に何を求めているのだろう。


「そっ、れは…、休もうと思ったけど、流石に重要な仕事だったし、いや、やっぱり、休むべきだった…。何より大事なのはリリーだから。

 心細かったよね。ごめんね…」


 いやいやいや!休まないでよ!?

 レイノルドが頑張って説得して、やっと会議に出席したのに。レオン様の言葉に行かないべきだったと言い始めた。

 二人は心配しているが私はシン様が会議に参加してくれてよかったと思っている。そんなに心配しなくても私は大丈夫なのに、重要な会議を休まないで欲しい。


「私は特に問題ありませんので、お仕事の方優先させてください」


「いや、問題大有りだろ!?」レオン様が食いついてきた。

 

 まあ、考えてみれば、確かに知らない世界にいることは問題は大有りだが、その問題はシン様が近くいたから解決することではないし、シン様が会議休めば解決するような問題ではない。

 

 実際、記憶障害ではないのだから。

 やはり、この場で話してしまおうか。彼らが知っているリリアーナが私ではないことを。

 一瞬、そう頭によぎり、急いで打ち消す。やはりこれは一人で解決したほうが良い。だって、シン様がリリアーナを愛していることは伝わるし、レオン様がリリアーナを大切に思っているのではないかということも伝わる。だから、私が彼らの想っているリリアーナじゃないことを知ったら、彼らは本当の彼女を探しだすだろう。でも、見つかるのかわからない。起こっている出来事が常識を超えすぎている。彼女がこの世界のどこかにいるなら見つけられるかもしれない。でも、彼女が私の元の世界に行ってしまったら?もしくは全く人知の及ばないことに巻き込まれていたら?こんなことを正直に話して不安にさせてしまうより、彼女が見つかるまで私が彼女の振りをした方がいいのではないかと思う。それで彼女が見つかったら何事もなかったように彼女に居場所を返す。それが一番だ。騙してしまうことの申し訳なさはあるが…。


 リリー、リリアーナと呼ばれ、顔を見上げる2人ともこちらを向いていた。考え事をして、話を聞き流していたが、随分話は進んでいるようだ。

 

「それで、俺と会った時、何やってたんだ?」

 話は進んだどころか話題が変わっていた。記憶障害(仮)の話をしていたのではないのか。

 レオン様と会ったときね。亡霊探しをしていたけど…。ちらっと、上を見上げ、シン様の顔を見る。でも、そう言えば、シン様にちゃんと10時に寝るように言われてたんだった。

 夜じゃなくて昼間の10時じゃだめかなぁ。何もすることなかったので昼間の10時には布団でごろごろしていたはずだ。


 視線に気づいたシン様がん?どうしたの?と、こちらを見る。

 なんでもないです、と言って視線を逸らした。


「えっと、おて、お水飲みに行きたくなって、……迷ってました」

 お手洗い、で誤魔化そうとしたが、瞬時に喉乾いたことに変更する。お手洗いは、近くにありすぎて、夜で暗いからと言って、迷うなんて不自然だ。


「窓の外に……?」

 怪訝そうな顔を向けられ、はっとする。そう言えば、見つからないようにと、窓から逃げようとしてたんだった。結局見つかってしまったが。


「窓の外ってどういうこと?」

 予想外の反応なのか、シン様が戸惑いながら、私たちを見た。


「……まさか、幻覚症状もあるのか?窓の外に何か見えていたのか?考えてみると、あの時の様子尋常じゃなかったもんな……、」

 ひえっ、レオン様がとんでもない解釈をし始めた。違います、違います、幻覚は見てないですと思いっきり、首を振る。


「いや、幻覚見てる奴はみんなそれは幻覚じゃないというんだ」

 いやいやいや。幻覚見てる奴はってそんなよくいる風に言われましても。酔ってる奴は酔ってないって言うんだみたいによくある風に言われましても。


 レオン様はシン様に、私と会った時の様子を伝える。彼の解釈付きで。その度に違います、違いますと首を振る。しかし、シン様はみるみるうちに顔を真っ青にしていく。

 まあ、レオン様視点では私は真夜中にふらふらしている奴がいるから、追いかけて注意しようとしたら、突然走り出し、空き部屋に駆け込んで、飛び降りようとしている。それを止めたら、青白い顔色で震えていたということだ。なんともやばい奴だ。

 私からしたら、昼間は何もできないし、ほとんど部屋から出れないので、夜に遊び気分で幽霊の正体を探しに行き、誰かがいるのに気づいたから窓から逃げようとしたが、失敗し、何度も私を殺そうとしていた人の亡霊に会い怖がっていたということだけど。


 話がさらに大事になっていくのを感じ、失礼は承知でレオン様が亡くなっていると思い込んでいたことと、それで怖がっていたことを伝える。流石に何度も殺されかけたことは避ける。彼らにとって私が偽物のように、目の前のシン様が私の知っているシン様ではないように、目の前のレオン様も私の知っている彼とは違うから、別人と考えた方がいいかもしれない。

 逃げ出したことは亡霊の話を聞いて怖かったから、ということにしておこう。


 しかし、私がいくら説得を試みても大事ということになってしまった。一応、シン様はレオン様が亡くなっていると思い込んでいたことと、亡霊が怖くて逃げていたことは信じてくれた。しかし、レオン様によると、以前の私はホラー系は全然平気で、レオン様に懐いていたのであの怖がりようはやはりおかしいと言われてしまった。


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